社会が成熟すると,分業が進み,資源の利用,物質生産および情報伝達等の効率化により,多彩な社会活動が可能になる.これと同じように,真核生物は,エネルギー産生,物質合成と分解,運動といった細胞活動の分業を行うことで,仕事を効率化させ,多彩な機能を発現する細胞集団を生み出している.この細胞小器官を単位とする分業と細胞の機能特化は,多細胞生物を成立させる基本的仕組みである.これまで,生化学は生体分子の生合成と分解過程を明らかにしてきた.現代の生化学は,生体分子が,どこで,だれと会い,何をしたか,といった場面の分子的描写により,生命現象を捉えようとしている.今回の特集では細胞活動の分業主体の細胞小器官を取り上げた.細胞小器官の形成(ペルオキシソーム・ゴルジ体),活性調節(プロテアソーム・液胞/リソソーム),ストレス応答(小胞体・核・形質膜・リソソーム)といった場面がどのような分子群によってどのように描かれるのか,各小器官の研究者にご執筆いただいた.
多様かつ重要な代謝機能を有するペルオキシソームの形成機構を概説し,最近大きく進展したペルオキシソームタンパク質の輸送局在化機構やその制御機構,酸化ストレス応答とレドックス制御におけるペルオキシソームの新たな役割など,最新の知見を紹介する.
ゴルジ体はゴルジスタックやゴルジリボンと呼ばれる特有の構造をとり,その構造はゴルジ体の主な機能であるタンパク質や脂質の修飾・分泌に影響する.この特有の構造は,ゴルジ体に局在しコイルドコイルを有するゴルジンタンパク質群によって維持される.
近年,サリドマイドに代表されるタンパク質分解誘導剤が標的タンパク質をプロテアソーム依存的分解する化合物群であることがわかってきた.本稿では,タンパク質分解誘導剤の作用メカニズムと解析技術について,最新の研究動向と我々の知見を併せて紹介する.
液胞/リソソームアミノ酸トランスポーターの多様性や調節機構の解析が進み,トランスセプター(トランスポーター兼受容体)として機能するものも見つかっている.本稿では,酵母を中心に,この分野の最新知見を紹介する.
日和見病原性のヒト口腔レンサ球菌は構造的および機能的に多様な溶血毒素を産生し,細胞膜に障害性を示す.本稿では,ヒトCD59を認識するコレステロール依存性細胞溶解毒素に注目し,標的細胞膜に対する作用特性や細胞障害性との関連について紹介する.
小胞体膜タンパク質PERKは,小胞体ストレス応答の伝達タンパク質として知られている.本稿では,小胞体のタンパク質恒常性の維持以外に,近年明らかになってきたPERKによるオルガネラ制御と個体機能調節について紹介する.
核膜の構造異常やDNA損傷のような核機能の低下をもたらすストレスを核膜ストレスと呼ぶ.本稿では小胞体膜に局在する転写因子OASISを起点とする核膜ストレス応答機構について概説し,その破綻から疾患に至る可能性にも言及する.
ノイラミニダーゼ1(NEU1)はグリコシダーゼの一種であり,哺乳類細胞に過剰発現させると細胞内で結晶化することが知られている.本稿ではNEU1の細胞内結晶化を中心に,タンパク質細胞内結晶とオルガネラの応答について概説する.
がん細胞が生存していく上で重要な抗酸化物質であるグルタチオンの産生は,細胞外からのシスチンの取り込みに大きく依存している.本稿では,がん細胞のシスチン代謝に対する細胞密度や細胞外のグルコースの影響について,最近の知見を紹介する.
リソソームの細胞内分布はさまざまな生理機能に関与する.本論では,パーキンソン病患者血清中で増加する毒性物質アクロレインの作用解析を通じ,最近我々が同定した酸化ストレス誘導性のリソソーム逆行輸送のメカニズムとその意義について解説する.
フェリチンはNCOA4を介した多価相互作用によって液‒液相分離することで液滴を形成し,マクロオートファジーとミクロオートファジーの二つの異なる経路でリソソームに輸送される.両経路は共通してアダプタータンパク質TAX1BP1を必要とする.
がん融合遺伝子の多くは,本来の遺伝子とは異なる特殊な機能で細胞の増殖や浸潤に寄与するとされる.本稿では小児の代表的な悪性脳腫瘍である上衣腫をテーマに,脳内において融合遺伝子が持つユニークな発がん能に関して筆者らの研究を中心に概説する.
最近我々は,ショウジョウバエをモデルとした研究から,非必須アミノ酸チロシンを感知して起こるタンパク質欠乏に対する適応機構の存在を発見した.本稿では,その研究を中心に動物個体がどのように種々の栄養条件に適応するかを議論したい.
タイプICRISPR-Cas3は,標的DNAを認識することで大規模欠失変異を導入でき,CRISPR-Cas9と異なる新しいゲノム編集技術として注目されている.特に,遺伝子治療やCRISPR診断といった医学分野で応用が進んでいる.
ミトコンドリアの形態と機能には相関性があるといわれているが,その形態変化は非常に動的で着実な機能制御は難しい.本稿では,新たに発見された安定的なミトコンドリアの分裂と保護を担う経路とそれを仲介するペプチドGJA1-20kついて,最新の成果を紹介する.
骨格筋の間質に存在する間葉系間質細胞は,筋の脂肪化や線維化,骨化の元になる細胞として同定された.病的な特性に関する研究が先行したが,最近,本細胞が筋の維持や適応においても重要な役割を果たすことが明らかとなり,その生理的機能が注目されている.
抗腫瘍免疫応答の本態を理解するためには腫瘍微小環境を1細胞レベルで解析し,免疫抑制機能を明らかにすることが重要である.本稿では腫瘍微小環境を構成する代表的な細胞の免疫制御について述べる.
mRNA翻訳は,遺伝子発現量を加減調節する場として再注目されている.本論では,最近我々が発見した体内時計中核遺伝子Period2の「最小単位uORF」という新規RNAエレメントを通して,翻訳反応が織りなす生命の「しなやかさ」を紹介する.
ケトン体は,三つの代謝物質,β-ヒドロキシ酪酸,アセト酢酸,およびアセトンの総称である.ケトン体は飢餓時の主要なエネルギー供給源として知られるが,最近になり,多面的な作用が注目されるようになっている.本稿ではケトン体代謝とミトコンドリア機能に注目した研究を紹介する.
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