細胞外微粒子は,ナノからマイクロサイズに至るさまざまなものが存在するが,環境中から生体内に取り込まれるPM2.5やナノマテリアル等の外因性微粒子と,細胞外小胞や生体分子会合体等の生体内由来の内因性微粒子に大きく分類することができる.JSTCREST「細胞外微粒子」領域およびJSTさきがけ「微粒子」領域が開始され,内因性微粒子や外因性微粒子の生体における認識機構,動作原理,生体応答などの研究が加速し,細胞外微粒子に起因する新たな生命現象の解明および細胞外微粒子の検出・分離・計測・解析等の基盤技術開発のみならず,その制御に向けた研究が大きく進展している.本企画においては,細胞外微粒子に起因する生命現象の解明とその制御に関する研究について,1)内因性微粒子の生体応答機序解明・体内動態制御,2)外因性微粒子の生体応答機序解明・体内動態制御,3)外因性微粒子と内因性微粒子の融合研究,4)細胞外微粒子の解析技術などの分野において,世界に先駆けた研究を行っている研究者らに執筆を依頼し,最先端の研究成果と医療応用および環境解析応用の可能性と展望について紹介する.
我々のグループはエクソソームの多様性を表す新たな指標として表層糖鎖に着目し,その糖鎖プロファイリング技術の確立と糖鎖基盤分離システムの開発,糖鎖を介した生体との相互作用解析を行っている.これらに関する最新の研究成果について概説する.
微小管結合タンパク質のタウ,シナプスタンパク質のαシヌクレイン,核タンパク質のTDP-43は,異常な折りたたみ構造をとって線維化すると,タウオパチー,シヌクレイノパチー,TDP-43プロテイノパチーといった神経変性疾患の原因となる.
PM2.5などの大気中微粒子は粒子径,化学組成が異なる複雑な粒子群であり,環境中での化学反応性や物理特性,生体内での呼吸器深部への移行性や生体応答は多様である.そのため,調査研究では粒子径ごとの粒子分級と高精度の化学組成解析が研究の基盤となる.
マクロピノサイトーシスは刺激誘導的なアクチン駆動性液相エンドサイトーシスである.本稿では,細胞外微粒子の細胞内への取り込みにおける,マクロピノサイトーシスの寄与とその同定における課題に関して紹介する.
リンパシステムは体液循環の調節の他,免疫細胞とリンパ管内皮細胞が協奏した免疫調節など多彩な機能を持ち,魅力的な創薬標的である.本稿では,人工微粒子である脂質ナノ粒子を用いたリンパ機能の包括的な制御を目指した取り組みについて紹介したい.
呼吸器・アレルギー疾患等を悪化させるさまざまな環境中の微粒子(黄砂,金属,炭素,デイーゼル排気微粒子,および,それらを含むPM2.5)を対象に,生体応答へのエントリー経路や生体応答機序を明らかにすることを目指し,研究を進めている.
アスベストなど繊維状ナノマテリアルの中には過剰鉄を病態として発がん性を示すものがある.細胞外小胞の分泌が鉄代謝と密接に関連するなど,外因性と内因性の細胞外微粒子は鉄を要にリンクしており,新たな次元での法則性が明らかになりつつある.
肺炎,がん,生活習慣病,アミロイドーシスといった多くの難治性疾患には,環境微粒子や内因性微粒子を認識したマクロファージ炎症応答が深く関与していることが最近わかってきた.本稿ではマクロファージによるこれら微粒子の認識機構について紹介する.
合成生物学的手法によって細胞を改変することによって,そこから放出される細胞外小胞(EV)にさまざまな機能を付与することができる.本稿では,このようなアプローチによって,EVを理解・応用することを試みている最近の研究を紹介する.
細胞外微粒子の高感度・高効率検出技術の創出は,健康長寿社会へ貢献する新技術創出へとつながる.本稿ではナノワイヤによる生体粒子の濃縮および内包物抽出,またナノ細孔(ポア)を用いた単一生体粒子分析について,それぞれの応用展開も含めて紹介する.
我々は,細胞外微粒子を解析するための新たな観察方法として,走査電子誘電率顕微鏡とインピーダンス顕微鏡の開発を進めてきた.本稿では,これらの方法を用いた細胞外微粒子の直接観察や細胞に与える影響の解析結果に関して報告する.
直鎖状ユビキチン鎖はサイトカイン刺激に応じて形成され,炎症応答や細胞死制御を担う特殊な翻訳後修飾系である.本稿では,生体において直鎖状ユビキチン鎖が機能する炎症寛容機構に注目し,組織の恒常性維持および炎症病態形成における役割を概説する.
グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)はタンパク質を細胞膜につなぎとめる役割をしている糖脂質である.我々は,GPIアンカー型タンパク質の選別輸送がGPIアンカーの構造変化によって品質管理されていることを明らかにしたので紹介する.
生体膜リン脂質は細胞や細胞小器官の必須の構成因子である一方で,その生命現象における役割の全貌は依然として謎に包まれている.本稿では,新たに明らかになった膜リン脂質を介する細胞内温度制御について概説する.
好熱性生物のtRNAに見いだされたリン酸化ウリジン修飾は,tRNAの構造を安定化することで生物の耐熱性に寄与している.また,この修飾は修飾酵素ArkIと脱修飾酵素KptAにより可逆的に制御され,遺伝子発現の調節に貢献していると考えられている.
化学物質の安全性は主に動物を用いた毒性試験により担保されている.しかし,胎児への影響を評価する発生毒性試験は種差が大きいことが知られており,動物試験代替法の開発が進んでいる.本稿では,これまでの知見とヒト細胞を用いた新規の発生毒性試験法を紹介する.
悪性腫瘍では細胞外小胞(EV)を介した内包物の輸送が腫瘍増生に重要であるが,その内包物以外,特に脂質の機能はほとんど不明である.本稿では悪性リンパ腫における解析から明らかとなったEV脂質を介した新規作動機序について概説する.
植物は独自のペプチドホルモンを多数獲得し,成長や環境応答を調節している.植物ペプチドホルモンの同定や生理機能は主に被子植物を用いて研究されてきたが,近年,ゼニゴケなどコケ植物を用いた研究から,その多様性や進化の理解が進んでいる.
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