生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

Online ISSN: 2189-0544 Print ISSN: 0037-1017
公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society

鑑往知来~生化学会100年の軌跡JBS 100th Anniversary Special Articles


アトモスフィアAtmosphere

日本生化学会のセンテニアルに夢みることForeword

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970371
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特集「低分子量GTP結合タンパク質の新展開~構造と機能に関する研究~」Special Reviews “New Advances in the Structure and Function of Small GTP-binding Proteins”

低分子量GTP結合タンパク質の研究は日本のお家芸とも言えるほど,古くから活発に行われてきた.タンパク質の精製からはじまり,cDNAクローニングやゲノム配列の決定まで,低分子量GTP結合タンパク質の黎明期において多大なる貢献をしてきた歴史がある.また,現在では一般的な概念として広く知られている「タンパク質に結合するグアニンヌクレオチドのエネルギー準位に応じて細胞内シグナルが惹起される,つまりGTP結合型が活性化状態であり,GDP結合型が不活性化状態である」という普遍的な考え方も日本生化学会に多大な貢献をされた東京大学名誉教授上代淑人先生がご提唱されたものである.本特集号では,RasのサブファミリーメンバーであるRho,Arf/Arl,Rab,Ran,すべてのメンバーに関する最新の動向について,国内外でご活躍されている生化学・分子生物学分野の先生方にご執筆いただいた.各章において,はじめに各々のサブファミリーが現行研究で置かれている科学的な立ち位置を明確にし,細胞や分子を可視化する超解像度顕微鏡技術によって明らかにされた細胞内におけるユニークな役割や関連する分子メカニズムについて,あるいは短期間での遺伝子改変を可能にしたゲノムおよびRNA編集技術の進歩による生体レベルでの機能解明について,さらには次世代型遺伝子解析技術による疾患との関連性やハイスループットスクリーニングによる化合物およびRNAの創薬研究などを紹介し,将来へ向けた展望を提唱したい.

RASopathies:臨床から分子生物学的研究までClinical features and pathogeneis in RASopathies

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970377

RASの生殖細胞系列での変異はNoonan症候群類縁疾患に同定され,現在それらの疾患はRASopathiesと包括して呼ばれる.RASopathiesの原因遺伝子同定や病態解明研究の進展について疾患研究の立場から概説する.

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atypical RasファミリーκB-Rasの生物学的機能Biological functions of the atypical Ras family κB-Ras

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970385

Rasに類似しながら異なる機能を持つatypical Rasファミリーが多数同定されている.本稿では,κB-Rasタンパク質の性質とともに,κB-RasがNF-κBを阻害する分子機構と最近明らかになってきたがんとの関わりについて紹介する.

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生体におけるRap1低分子量Gタンパク質の多様な機能~血管機能への関与を中心に~Diverse biological functions of the small GTPase Rap1 in vivo: Focus on its role in vascular function

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970393

Rap1低分子量GTP結合タンパク質は,インテグリンを介した細胞‒基質間接着およびカドヘリンを介した細胞間接着を制御するシグナル分子であり,細胞の基本的な機能に関与する.本稿では,血管内皮細胞におけるRap1の多様な機能について概説する.

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心血管系組織に対する低分子量GTP結合タンパク質RhoAの新たな分子作用機序Novel roles and functions of a small GTPase RhoA in cardiovascular physiology and pathology

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970403

低分子量GTP結合タンパク質RhoAの心血管系組織における新たな機能に関して,その生理学的・病理学的役割について説明するとともに,RhoAの活性を制御する分子やRhoA下流のシグナル分子の心血管系組織に対する作用についても概説する.

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Dblファミリーグアニンヌクレオチド交換因子の構造と制御の新展開New insights in the structure and regulation of Dbl family guanine nucleotide exchange factors

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970415

GPCR刺激により遊離される活性型Gタンパク質サブユニットとの相互作用や,SH3ドメインを介したタンパク質間相互作用によるDblファミリーRho GTPase特異的グアニンヌクレオチド交換因子(RhoGEF)の制御機構について解説する.

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DOCKファミリー交換因子の構造と機能の新展開New developments in the structure and function of the DOCK family GEF

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970423

DOCKファミリー分子は,RacとCdc42の非典型グアニンヌクレオチド交換因子(GEF)である.最近,クライオ電子顕微鏡によって明らかになったDOCK5とその結合因子の立体構造に焦点を当て,複合体形成による活性制御のメカニズムを概説する.

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低分子量Gタンパク質Arf6とそのグアニンヌクレオチド交換因子の多様性が担う神経機能の制御機構Regulatory mechanisms underlying neural functions mediated by the diversity of guanine nucleotide exchange factors for the small GTPase Arf6

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970432

低分子量Gタンパク質の一つであるArf6は,小胞輸送経路やアクチン細胞骨格の制御を介して神経回路網の形成やシナプス可塑性の発現に関与することが明らかになってきた.本稿では,Arf6の活性化制御因子の分子多様性とその神経機能への意義について紹介する.

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グリア細胞におけるArf6の新しい役割New role of Arf6 in glia

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970441

本稿では,低分子量GTP結合タンパク質のなかでも多機能な役割を持つArf6に焦点を置く.中枢および末梢神経系グリア細胞におけるArf6の新しい機能とシグナル経路について,遺伝子改変マウスを用いた研究を中心に国内外の知見と比較しながら紹介する.

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ARLファミリー低分子量Gタンパク質の多様な機能Functional diversity of ARL family small GTPases

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970456

主にARFとの相同性から同定されてきたARL(ARF-like)であるが,予想以上にさまざまな細胞応答の制御に関与することがわかってきた.本稿では,徐々に明らかにされつつある各種ARLの機能や特徴について紹介したい.

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Rabファミリーによるメンブレントラフィック制御の新潮流New trends in the control of membrane traffic by Rab family small GTPases

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970467

低分子量Gタンパク質Rabは,真核生物に保存されたメンブレントラフィックの鍵制御因子である.本稿では,Rabの翻訳後修飾による活性・機能制御に関する最新の知見と,ノックアウト等の解析により明らかになってきた,Rab研究の新潮流を紹介する.

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初期発生におけるRan-GTPの紡錘体形成機能とその必須性の変化Function and essentiality of Ran-based spindle assembly in early embryogenesis

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970472

Ranの紡錘体形成機能は,初期発生において十分に検討されていない.本稿では,オーキシン誘導デグロン法を用いた我々の最新の研究成果を中心に,Ran-GTPによる紡錘体形成機能と,その必須性が脊椎動物の発生過程において変化することを解説する.

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植物–病原菌の相互作用におけるRac/Ropファミリー低分子量GTP結合タンパク質の役割Role of Rac/Rop family small GTPases in plant-pathogen interactions

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970478

Rac/Ropファミリー低分子量GTP結合タンパク質は,植物の免疫や微生物共生に関与する分子スイッチである.本稿では,免疫シグナル伝達や共生における役割を最新の研究成果とともに論じる.

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総説Reviews

社会性行動を調節する化学感覚シグナルと脳神経回路基盤Vomeronasal ligands and neural circuits controlling innate social behavior in mice

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970487

動物のライフサイクルに欠かすことのできない本能的な社会性行動を,鋤鼻嗅覚系を介して調節するフェロモンなどのリガンドや,緻密な社会性を成り立たせるために機能する視床下部を中心とした神経回路基盤について紹介する.

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突然変異マウスとの出会いをきっかけに脳神経系発生の遺伝子プログラムを解く~Ptf1a, Auts2遺伝子の神経発生における役割~Roles of Ptf1a and Auts2 genes in neural development

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970498

神経発生生物学の究極の目標は,脳神経系発生のすべての遺伝子プログラムを解くことである.筆者は,小脳がない突然変異マウスとの偶然の出会いをきっかけに,Ptf1aAuts2などの遺伝子の役割の一部を明らかにしたので,それを紹介する.

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みにれびゅうMinireviews

グアニン四重鎖を核としたαシヌクレイン凝集による神経変性機構The mechanism underlying neurodegeneration by αSynuclein aggregation initiated by G-quadruplex

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970509

神経変性はプリオン性タンパク質の病原性獲得による凝集体形成と,それに続く細胞間伝播により進行すると考えられているが,その分子メカニズムは未解明である.本稿では,RNAグアニン四重鎖によるαシヌクレイン凝集と神経変性機構について紹介する.

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トリプルネガティブ乳がんの浸潤転移における微小管−アクチン結合タンパク質の機能Microtubule/Actin-binding protein MAP1B organizes invadopodia-driven invasion in triple-negative breast cancer cell

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970513

トリプルネガティブタイプの乳がん細胞は高い増殖能と浸潤転移能を持つ.最近,著者らは,MAP1Bと呼ばれる微小管‒アクチン結合タンパク質がこのタイプの乳がんで高発現することを見いだし,その機能を明らかにしたので本稿ではその知見を中心に概説する.

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細菌の翻訳アレスト機構の普遍性と多様性Universality and diversity of bacterial translation arrest

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970519

翻訳の途上でリボソームと相互作用し翻訳を一時停止させ,翻訳途上鎖の状態で環境センサーとして働く「機能性新生鎖」.近年,ゲノム配列情報の蓄積やデータ解析技術の進展により,その多様性と普遍性が明らかになりつつある.その最新の研究成果を紹介する.

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フェロトーシス細胞が分泌する抗老化シグナルThe anti-aging signal secreted from ferroptotic cells

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970524

鉄介在性細胞死、フェロトーシスは疾患の原因にもなるが,適切に制御されれば,がん抑制をはじめ生体の恒常性維持に寄与しうる.その一例として,フェロトーシス細胞が抗老化因子であるFGF21を分泌し,さまざまな老化関連形質を抑制することが報告された.

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植物におけるcAMP合成・分解酵素の発見と機能Identification and functional roles of cAMP metabolizing enzymes in plants

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970529

多様な生物においてcAMPは細胞内シグナル伝達物質として重要な役割を果たすが,植物におけるその機能は判然としていなかった.我々はコケ植物からcAMPの合成と分解の両方を担う酵素を同定し,その生化学的特徴と生理機能を解明した.

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耐塩性を支える植物NaトランスポーターSodium transporters confer salt tolerance in plants

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970534

ナトリウムは植物に不要な元素で,高濃度では生育を阻害する.塩害が深刻化する中,植物の耐塩性機構解明と塩環境における植物の生産性向上が喫緊の課題である.本稿では,生殖成長期におけるNa+輸送体の役割と耐塩性メカニズムを概説する.

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肥満を調節する細胞外リン脂質代謝酵素Secreted phospholipase A2 regulating obesity

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970539

細胞外リン脂質の分解を担う分泌性ホスホリパーゼA2(sPLA2)は発現部位や基質特異性が異なる11種類の分子種が存在し,さまざまな生体応答に関わる.本稿では,特に肥満や糖尿病を含む代謝性疾患に関連するsPLA2の役割について,筆者らのこれまでの知見を交えながら概説する.

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クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析によるワニヘモグロビン特有のアロステリック制御の解明Cryo-EM structural analysis of crocodilian haemoglobin revealing its unique allosteric regulation

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970545

長年の試みにもかかわらず解明されていなかった,ワニのヘモグロビンの分子構造をクライオ電子顕微鏡単粒子解析法により決定した.それにより,40年以上も謎であったワニ特有の重炭酸イオンによるアロステリック制御の仕組みをアミノ酸レベルで解明した.

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テクニカルノートTechnical note

新規輸送開始実験法RudLOV法の開発と積荷輸送の観察Development of a new method for optical synchronized cargo transport, RudLOV, and observation of cargo transport

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2025.970550

本稿では,筆者らが開発した,光照射により小胞体からの積荷タンパク質の輸送を開始できる新規輸送開始法,RudLOV法を概説する.さらに,この手法を用いて観察した積荷タンパク質のゴルジ体からの搬出について,新規観察像を含めて報告する.

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