生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

Online ISSN: 2189-0544 Print ISSN: 0037-1017
公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society

アトモスフィアAtmosphere

疑問からアイディアへ

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890001
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特集「生体機能性ペプチドを応用した次世代ナノメディシンの展開」の企画にあたって:企画 近藤 英作Special Reviews
Innovative Approach to the Next Generation Nanomedicine by Novel Peptides with Diverse Functions, Eisaku KONDO(ed)

医療応用を目的として、生体機能を制御するツールとしてのさまざまなナノ分子が近年活発に開発されている。これらナノツールには化学合成される有機・無機分子が多い。インスリンペプチドや心房性ナトリウム利尿ペプチドなどに代表されるように、ペプチドは抗体とならんで実際に生体内で産生されるアミノ酸を組成とする分子である。これらは一つの観点として、前者合成物に比べると、ひとのからだになじんだ、より自然な組成をもつバイオツールとしての長所があると言えよう。本特集でご理解いただけると思うが、わずか数個~数十個のアミノ酸連続体が非常に多彩な生体内機能を発揮するのが、ペプチドによる医化学研究の大きな魅力である。たった一つのアミノ酸残基を置換したり、直鎖状、分岐状、環状化などペプチドフォームを改変したりするだけでその機能が劇的に改変されるのも特徴の一つであり、それゆえに自在なデザインの改変を試行できる余地がある。今回の特集では、特に次世代ペプチド医療への展開を視点に、固形腫瘍や神経系腫瘍などを対象としたドラッグデリバリーシステムへの応用ポテンシャル、また細胞膜透過型ペプチドの基盤的な取り込み機構など、ダイバーシティに富んだ内容で先進研究者らによる研究の展開を紹介する。

アルギニンに富む膜透過ペプチドの細胞内移行Membrane translocation of arginine-rich cell-penetrating peptides

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890008

アルギニンに富む膜透過ペプチド(アルギニンペプチド)は細胞内へのタンパク質導入に用いられる.この導入法による細胞内送達は,条件に応じて,エンドサイトーシスと形質膜の直接透過の二つの経路を併用することで達成される.

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短鎖機能性ペプチドの探索Screening and design of short length functional peptide by peptide array

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890015

アレイ状にスポット固相合成したペプチドライブラリー(ペプチドアレイ)で短鎖機能性ペプチドを探索し,配列機能相関解析によりペプチドの機能解明が可能である.光解裂リンカーや細胞膜透過性ペプチド,分子プローブペプチドによる新機能発現も紹介する.

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細胞膜透過ペプチドの神経系への応用The application of cell penetrating peptides to the nervous systems

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890021

これまで治療が困難とされてきた疾患の新たな治療法として分子標的治療が注目を集めているが,生体での神経細胞への治療用分子の導入は困難をきわめている.本稿ではこの問題に対し近年行われている細胞膜透過ペプチドを用いた治療戦略の開発について紹介する.

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ハイブリッドペプチドを用いた新たながん分子標的治療を目指してDevelopment of molecular targeted anti-cancer hybrid peptide for novel cancer therapy

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890031

我々はこれまでに,がん細胞膜を標的とし,全化学合成可能な分子標的抗がん剤候補“ハイブリッドペプチド”を設計し,その薬効および優位性を見いだしてきた.本稿では,ハイブリッドペプチドを用いたこれまでの研究成果,今後の取り組みについて紹介する.

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ペプチドリガンドを搭載したドラッグデリバリーシステム(DDS)の創製Development of targetable drug delivery systems with peptide ligands

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890039

ペプチドリガンドを導入したナノ粒子型のドラッグデリバリーシステム(ナノDDS)は,標的組織への効率的な移行から標的細胞による効率的な取り込み,さらには細胞小器官(オルガネラ)レベルのターゲティングを可能にする.

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テイラード・アプリケーションを目指したがん細胞選択的吸収性ペプチドの開発Development of tumor-lineage homing peptide for their tailored application to diverse malignancies

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890044

我々がランダムペプチド・ライブラリーから分離した腫瘍系統別に高度吸収性を発揮する新規ホーミングペプチドは,次世代がん医療への応用が可能な生体低侵襲性検査・診断技術や革新的ドラッグデリバリーシステム構築の大きな可能性を持っている.

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総説Reviews

レット症候群病態に重要なMeCP2の新機能:MeCP2によるmicroRNAプロセシングを介したmTORシグナル制御Novel function of MeCP2 in the pathophysiology of Rett syndrome: Regulation of mTOR signaling mediated by MeCP2-dependent microRNA processing

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890051

MECP2遺伝子の変異は,重篤な発達障害・レット症候群の原因となるだけでなく,さまざまな精神疾患の発症に関与する.本稿では,病態発症に寄与するMeCP2の分子機能について,これまでの知見と我々の最近の研究成果を交えて紹介する.

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スフィンゴ糖脂質の脂質ラフトの構造と機能:ラクトシルセラミドの脂質ラフトを介した自然免疫応答Organization and function of glycosphingolipid-enriched lipid raft: Lactosylceramide-enriched lipid raft-mediated innate immune responses

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890062

ラクトシルセラミド(LacCer)は細胞膜上で脂質ラフトを形成する.LacCerは糖鎖を介して病原微生物と結合し,脂肪酸鎖と会合した情報伝達分子を介して貪食反応を惹起する.さらに,LacCerの脂質ラフトはインテグリン分子の情報も仲介する.

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みにれびゅうMini Reviews

シュゴシンタンパク質が染色体末端で果たす意外な役割Unexpected roles of Shugoshin at chromosome ends

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890073

シュゴシンタンパク質(Sgo2)は,細胞分裂期において染色体のセントロメアに局在し,正確な染色体分配に寄与する.筆者らは,分裂酵母のSgo2が間期に染色体末端近傍のサブテロメアに局在を移し,さまざまなサブテロメア機能を制御することを明らかにした.

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中枢神経系シナプス形成の多様性の分子的基盤Diversity of the molecular mechanisms of synapse formation in the central nervous system

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890077

シナプスの形成過程の解明は神経回路の理解にとって重要である.従来は興奮性細胞の樹状突起スパイン上に形成されるシナプスの解析が主流であったが,さまざまな神経細胞におけるシナプス形成過程を経時的に観察することで,その多様性が明らかとなってきた.

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血球細胞の酸化障害と血液関連自己免疫疾患Oxidative damage on blood cells and blood-associated autoimmune diseases

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890081

活性酸素種が血液関連の自己免疫疾患発症にどのように関わるか,遺伝子改変マウスと自然発症マウスの検討結果を概説する.レドックス感受性の高い分子は活性酸素種の標的となりやすいことから,他の疾患でも同様の機構が関与する可能性がある.

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細胞膜スフィンゴミエリンの代謝制御による新規細胞膜ダイナミズムDynamic modification of sphingomyelin evokes a novel membrane dynamism in the plasma membrane

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890086

スフィンゴミエリン(SM)は細胞膜を構成するリン脂質で,コレステロールとともに脂質マイクロドメイン(脂質ラフト)の形成に関与することが知られている.本稿では,近年明らかになりつつある細胞膜上でのSM合成・代謝が持つ生理的意義を議論したい.

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がん細胞の浸潤における運動様式の転換制御Control of switching between migration modes in cancer invasion

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890090

がん細胞は組織内を浸潤するとき,間葉系遊走とアメーバ様遊走の二つの運動様式を可逆的に変化させ,効率的に浸潤する手段を獲得していると考えられている.本稿では,これらの運動様式の転換の分子メカニズムについて,著者らの研究成果も交えて紹介する.

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DNAメチル化を用いたうつ病診断バイオマーカーの開発Diagnostic biomarker of major depression based on DNA methylation

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890094

発症過程に環境因が密接に関与するうつ病は,発症脆弱性の形成や発症機序がストレスによるDNAメチル化障害を介している可能性が考えられ,BDNF遺伝子のメチル化率が診断の,SLC6A4遺伝子のメチル化率が脆弱性のマーカーとなる可能性がある.

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膜受容体BOSS/GPRC5Bによる新しいエネルギー代謝制御機構Regulation of energy metabolism by BOSS/GPRC5B

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890098

BOSS/GPRC5B膜受容体は,新しいエネルギー代謝制御機構として,貯蔵エネルギーや摂食を制御していることが明らかになった.ショウジョウバエとマウスを用いた研究成果を報告する.

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分裂期において染色体を効率よく運ぶための仕組みMechanism for efficient chromosome alignment in mitosis

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890102

分裂期において染色体を娘細胞に均等分配することは細胞の恒常性を保つ上で必須な機構である.本稿では,染色体均等分配に必要な2種類のモータータンパク質が関与する新たな染色体動態モデルについて紹介する.

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Sigma-1受容体の生理機能と筋萎縮性側索硬化症との関連Pathophysiological role of sigma-1 receptor in Amyotrophic lateral sclerosis

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890106

若年性筋萎縮性側索硬化症(ALS)の家系においてSigma-1 受容体の点変異は運動神経変性と関連する.小胞体膜に発現する受容体あるいはシャペロンタンパク質として,ユニークな側面を持つSigma-1 受容体のALSとの関連について紹介する.

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細胞の運動と増殖の新規接触阻害機構Novel mechanism of contact inhibition of cell movement and proliferation

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890111

細胞の運動と増殖の接触阻害は,二つの細胞間で観察される現象であり,形態形成や組織構造の維持に必須である.本稿では,これまでに報告されている接触阻害機構について概説するとともに,最近筆者らが得たNecl-4を介する新規接触阻害機構を紹介する.

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細胞内タンパク質を可視化するタグ–蛍光プローブシステムZIP tag-probe system: A fluorescence imaging tool for intercellular proteins

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890115

三本鎖ロイシンジッパーを利用したタグプローブシステムは,環境応答性蛍光基を利用することで洗浄操作不要のタンパク質蛍光イメージングツールとして有用である.本システムの細胞内タンパク質イメージングへの応用,色素置換,共有結合型デザインについて概説する.

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ガングリオシドプローブの1分子観察によりラフト動態を探るInvestigation of raft dynamics by single-molecule observation of ganglioside probes

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890121

生きている細胞の膜上でのガングリオシドの動態を調べるために,蛍光プローブを開発した.蛍光プローブの1分子観察によって,ラフトはすべて動的であり,分子が絶えず激しく出入りしている構造を持つことが明らかとなった.

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テクニカルノートTechnical Notes

細胞環境下の生命システムを再現した1分子粒度シミュレーションBiochemical simulations at the molecular level reveal novel effects of cellular environments

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890126

分子一つ一つの動きから生化学反応系を再現する新規技法である1分子粒度シミュレーションを紹介し,その計算技術によって明らかになりつつある,細胞内環境が生化学反応,ひいては生命システムに与える影響についていくつかの例を取り上げる.

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