ユビキチンが連結して形成されるポリユビキチン鎖は,鎖長が長くなるに従って構造安定性が低下し凝集体を形成しやすくなる.この性質は細胞内でも観察でき,細胞内のポリユビキチン凝集体は選択的オートファジーの基質になる.
ユビキチン修飾はユビキチン鎖の「種類」,「長さ」,「複雑さ」「翻訳後修飾」により決定され,すべての要素を正確に理解することが重要である.本稿では,特に解析の遅れているユビキチン鎖の「長さ」を生化学的に決定する手法について紹介したい.
LUBACはSHARPIN,HOIL-1L,およびHOIPの三者から構成され,直鎖状ユビキチン鎖修飾を担う唯一のE3リガーゼ複合体である.直鎖状ユビキチン鎖の生成機構から炎症応答や免疫機能への関与に至るまで最新の知見を加えて解説する.
LUBACが特異的に生成する直鎖状ユビキチン鎖は,NF-κB経路の活性化を介して炎症・免疫応答を制御し,その機能破綻は神経変性疾患など各種病態に関与する.また,創薬を目指したLUBAC阻害剤の開発も始まった.本稿ではこの最新知見を概説する.
損傷したミトコンドリアの蓄積は神経変性疾患などの原因となるため,ミトコンドリア選択的なオートファジーによって分解される.本稿ではこの分解を制御する酵素USP30,PINK1,parkinについて,最新の機能・構造解析の成果についてまとめる.
K33ユビキチン鎖は定常状態では絶対量が少ないと報告されているが,T細胞受容体シグナル・I型インターフェロンシグナルなどに関与することが徐々に判明しつつある.またK33特異的E3ユビキチンリガーゼや脱ユビキチン化酵素も同定されている.
プロテアソームはユビキチン化タンパク質を捕捉し分解するが,複数のユビキチン鎖受容体サブユニット,脱ユビキチン化酵素やシャトル因子などの多様な会合因子との連携による巧みな分子機構が明らかになってきた.
ユビキチン修飾の構造的・機能的多様性はユビキチンコードと称される.近年,ユビキチン自身が翻訳後修飾を受けることや,分岐鎖や混合鎖といった複雑なユビキチン鎖高次構造が相次いで発見され,ユビキチンコードのさらなる多様性が明らかになってきた.
脱ユビキチン化酵素(DUB)はユビキチン化を負に制御する重要な因子である.我々はコムギ無細胞系を用いてヒトのほぼすべてのDUBの組換えタンパク質を合成し,それらのユビキチン鎖特異性解析や,DUB阻害剤の特異性評価パネルの構築を行った.
病原細菌は,宿主の防御システムを無効化して,感染を成立させるために一群の病原因子(エフェクター)を宿主細胞へ分泌する.本稿では,宿主細胞のユビキチン修飾系をハイジャックし,感染に必要な細胞応答を引き起こす病原因子について概説する.
フォルミンファミリーによるアクチン線維の急速回生機構やねじりのトルクを介する線維安定化,葉状仮足先端にあるブラウンラチェット型力覚センサーなど,蛍光単分子イメージングを用い我々が見いだした細胞の機械受容機構を,技術的な側面も含めて紹介する.
細胞表面の糖鎖は,発生段階特異的に発現が制御され,胚性幹細胞のマーカーとしても使われているが,その役割については,不明な点が多かった.本稿では,多能性幹細胞,組織幹細胞,がん幹細胞における糖鎖の機能を,筆者らの研究も含めて概説する.
酵素は巧妙な構造変化を伴いながら生体内化学反応を触媒するが,実際に酵素が基質に作用する様子を観測した例は少ない.本稿では,高速原子間力顕微鏡による一分子観測により明らかとなったプロテインジスルフィドイソメラーゼの作用機序を概説する.
クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子構造解析により,スルメイカ由来ヘモシアニンの会合体構造を4.2 Å分解能で決定した.本構造解析で明らかとなった立体構造から,軟体動物の酸素運搬タンパク質であるヘモシアニンの進化における立体構造の形態変化の仮説について紹介する.
骨髄線維症はJAK2V617F等の遺伝子変異により発症する骨髄増殖性腫瘍の主要な骨髄病変である.我々はビタミンDの過剰なシグナルとマクロファージが骨髄線維症の病態を進展させることを発見し,新規治療法のターゲットとなる可能性を見いだした.
ショウジョウバエ成虫器官の元となる「成虫原基」は,損傷再生時などに,器官を丸ごと別の器官に作り変える驚異的な細胞可塑性を示すことがある.この「決定転換現象」に関与するクロマチン制御機構について,筆者らの最新の知見を織り交ぜながら紹介する.
特異な生化学反応の集合である天然物の生合成経路には,未知の変換反応がいまだ数多く埋もれている.本稿では,遺伝子情報を指標とした天然物探索研究から始まり,新奇な微生物変換反応の発見につながった一連の研究の展開を概説する.
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