ルネサンスは,中世のしきたりにとらわれず,人間らしさを求める「新しい文化の動き」であり,当時のヨーロッパに自由な気風と学問・芸術の発展をもたらしました.ライフサイエンスの世界でも,DNAやタンパク質だけにとらわれず,糖鎖のもつはたらきに着目し,生命の神秘に挑もうという動きが活発になっています.本特集では,糖鎖の微細構造・不均一性,糖代謝経路に潜む謎,糖鎖修飾を管理する仕組みに着目した「糖鎖機能の本質に迫る基礎的研究」から,糖鎖模倣ペプチド・糖鎖ハイブリッドマテリアル・次世代型糖鎖抗体の創発,糖鎖抗原に対する拒絶反応の特異的な制御方法の確立,糖鎖の変化を捉える微量分析法の開発による「臨床応用の可能性を見据えた研究」までを取り上げました.活躍中の若手PIによる総説には,ライフワークと言える研究テーマにたどり着いたストーリーも織り込まれています.「糖鎖を知る」,「糖鎖を創る・操作する」,「糖鎖を診る,使う」という観点で,近畿を中心に展開されている糖鎖研究を生化学の読者に向けて発信いたします.
組織の構造支持体として捉えられてきたグリコサミノグリカン糖鎖.その代表格であるコンドロイチン硫酸鎖は,実に巧妙な硫酸化制御を受けていることがわかってきた.本稿では,コンドロイチン硫酸鎖の硫酸化修飾の意義と疾患発症との関連について概説する.
硫酸化グリコサミノグリカンは,ほぼすべてのコンホメーション病でタンパク質凝集体と共沈着する非タンパク質性成分である.本稿では,コンホメーション病における硫酸化グリコサミノグリカンの病態機能について,最近の我々の知見に基づき概説する.
中枢神経系にさまざまな糖鎖が存在していることは古くから知られていた.しかしながら,高次脳機能の制御基盤としての糖鎖の理解が進展したのは,比較的最近のことである.本稿では,神経可塑性と神経新生の制御における糖鎖の機能について,概説を行う.
哺乳動物はグルコースからマンノースを作り出し,タンパク質や脂質の糖鎖修飾に利用する.一方,糖鎖の分解によって遊離したマンノースの大部分は解糖系の燃料として利用される.本稿では,近年注目され始めたマンノースの代謝とがんとの関わりを議論する.
5000以上のヒトタンパク質に起こるO-GlcNAc修飾は,基質タンパク質の活性調節に関与している.本稿では,O-GlcNAc修飾の特徴的な不均質性,およびO-GlcNAc修飾によって基質タンパク質に付与される特性について述べる.
糖鎖修飾の大半を担う小胞体およびゴルジ体には細胞の需要に応じて機能を増強するストレス応答機構が備わっている.本稿では,糖鎖修飾機能の不足状態により発動される小胞体・ゴルジ体ストレス応答の活性化機構を中心に,最近の知見を交えて概説する.
著者の過去の所属研究室では,糖鎖の構造を模倣させたペプチドの探索が行われた.本稿では,糖鎖模倣ペプチドが腫瘍標的能を有することを見いだした経緯,および当該ペプチドを用いた著者らによる最近の取り組みについて,関連の知見とともに紹介する.
多糖基盤糖鎖ナノハイブリッドの設計と機能について,特に多糖の疎水化による自己組織化ナノゲルの構築と分子シャペロン機能を有するワクチンDDSとしての応用,また,酵素を利用した多糖ハイブリッドとして,アミロースハイブリッドの設計と機能について紹介する.
糖鎖の定量解析におけるクロマトグラフィーや電気泳動などの分離分析技術は,時空間的に多様に変化する糖鎖の理解に不可欠である.本稿では,糖鎖の深層理解につながる定量解析技術について,著者らが開発した技術について紹介する.
第三の生命鎖とも呼ばれる糖鎖が,革新的な医療技術として応用されることへの期待度が,ますます高まってきている.本稿では,次世代型糖鎖抗体を使った糖鎖バイオマーカー研究の新しい展開とレクチン治療の可能性について紹介する.
ABO血液型不適合ドナーや動物の臓器を用いた臓器移植後の生着の障壁となるのが,糖鎖抗原を標的とする抗体関連拒絶反応である.本稿では,血液型糖鎖や異種糖鎖抗原に対するB細胞応答のメカニズムとその制御法を概説する.
代謝物質が,エピゲノム反応,翻訳後修飾などを介して転写,翻訳を調節し,生命現象を制御することが明らかになってきた.本稿では,代謝物質による生命現象の制御例を紹介するとともに,筆者らが開発しているメタボローム解析技術と応用例について述べる.
ミトコンドリア由来小胞(MDVs)はミトコンドリアからカーゴ特異的に形成・放出される小胞である.進化的にも保存された膜動態であると考えられるが,多くの謎に包まれたままである.本稿では近年徐々に明らかになってきたMDVsの機能や生理的意義について概説する.
ANGPTL2は,組織リモデングを促進することで,損傷修復による組織の恒常性維持に寄与しているが,そのシグナル過剰状態は,生活習慣病やがんの発症・進展に関わる.本稿では,がん病態におけるANGPTL2シグナルの機能を中心に概説する.
電位依存性ホスファターゼVSPは,膜電位変化を感知し,細胞質領域であるホスホイノシチドホスファターゼを活性化する.単一タンパク質分子で電気化学連関を起こすユニークな分子である.分子動作原理から生理的役割,さらには分子改変による応用について振り返ってみる.
生体防御の要となる獲得免疫応答の破綻が自己免疫疾患を引き起こす.新しい治療法開発の陰で,多くの希少自己免疫疾患ではいまだに古典的な治療が続いている.本稿では,自己反応性T細胞を標的とした新しい自己免疫疾患の精密医療の可能性について解説する.
血管内皮細胞は,心筋細胞・造血幹細胞とともに中胚葉起源と考えられてきたが,内胚葉由来の内皮細胞が発生段階で一過的な血管ニッチを構成することがわかった.臓器・環境の違いだけではなく,発生起源の相違による内皮細胞の多様性創出が明らかになった.
自然免疫には,長年,記憶の仕組みが存在しないとされてきたが,近年,さまざまな生物で自然免疫の記憶が確認されている.しかし,そのメカニズムはいまだ不明な点も多い.本稿では,近年の研究とともに,ショウジョウバエを使った我々の研究を紹介したい.
CRISPR-Cas9に代表される,ゲノム編集に使用可能なRNA誘導性DNA切断酵素は,長い間,原核生物にのみ存在すると考えられていた.本稿では,最近報告された,真核生物におけるCRISPR-Cas様酵素Fanzorについて概説する.
今回,我々はビフィズス菌由来新規酵素の解析から,スルファターゼ非依存的な硫酸化ムチン糖鎖の分解経路が存在することを見いだした.ムチン分解に関する腸内細菌由来酵素群に関する知見・理解の現状と合わせて紹介する.
神経細胞が情報伝達を行う場であるシナプス結合の近傍に存在するパンクタアドヘレンシア結合には,接着結合裏打ち分子アファディンが局在し,シナプスの機能を制御している.本稿では,シナプスにおけるアファディンの機能とその分子機構について概説する.
中枢神経系の正常な機能や病態において,最近,オリゴデンドロサイトによる髄鞘形成が注目されている.本稿では細胞外マトリックス分子に着目して,オリゴデンドロサイトの発生・分化における細胞外環境因子の重要性を解説する.
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