RNA編集現象は,ゲノム上の遺伝情報がRNAレベルで配列が書き換えられる現象である.この現象は1980年代にトリパノソーマのミトコンドリア遺伝子で確認されて以来,哺乳類はもとより植物も含めて多くの真核生物で確認されている.哺乳類ではAPOBEC1やADARが行うRNA編集が知られていたが,2000年代前半にAPOBEC1と同じファミリーメンバーでウイルスDNAを標的にするAPOBEC3が報告された.その後,APOBEC3は,HIV-1などレトロウイルスのみならず,より広汎なウイルス種に対して抗ウイルス活性を示す重要な自然免疫因子であることがわかってきた.さらにAPOBEC3は,発がんとの関連性が示唆され,多くの研究者から注目を集めている.現在,オミックス解析の急速な進歩と相まってAPOBEC/ADARファミリーの研究は,当初ApoB100や神経受容体のRNA編集といった比較的狭い研究領域から,生命科学の根幹に関わる研究領域にまで波及し,新次元の展開を見せている.本特集号では,RNA編集現象,APOBEC,ADARについて,8人の研究者に最新のトピックを紹介していただいた.
B型肝炎ウイルスは,日本人の肝がんの原因として非常に重要なウイルスであるが,このウイルスが生体内でどのように排除されているかは未解明である.本稿ではAPOBECファミリーのB型肝炎ウイルスに対する抗ウイルス活性の分子機構を概説する.
HIV-1は,感染細胞内でウイルス産物Vifを発現することにより抗ウイルス因子APOBEC3を特異的に分解し,それらの細胞防御因子から逃れて増殖する.近年,APOBEC3の構造学的な知見から,ウイルスとA3とのしのぎ合いが非常にダイナミックに行われてきた証拠が浮かび上がってきた.
「ヒト化マウス」という小動物モデルを用いた研究を通して明らかとなった,生体内HIV-1感染ダイナミクスにおける宿主防御因子APOBEC3タンパク質と,HIV-1の相互作用・せめぎ合いについて概説する.
DNA編集酵素APOBEC3によるゲノム変異導入と発がんやがんのクローン進化における役割について,その発見の経緯から現在の研究の進展までを概説する.
哺乳動物とレトロウイルスが繰り広げる生き残りのための「軍備競争」をAPOBEC3の分子進化からたどると,意外にも現存マウスの一部系統の祖先が,わざわざタンパク質翻訳効率が低下する新規エキソンを獲得していた.その意味を探る.
A-to-I RNA編集酵素ADAR1は,近年microRNAの制御に関わることが明らかとなってきたが,さらに免疫疾患やがんといったさまざまな疾患に関わることが報告されている.本稿では,ADAR1と免疫疾患,がんとの関係を中心に,最新の知見を紹介する.
孤発性筋萎縮性側索硬化症(孤発性ALS)におけるRNA編集異常が細胞死を引き起こす分子カスケードの解析から治療標的となる分子異常を特定し,モデル動物を用いた治療法開発研究に基づき,ALSの特異治療法の確立を目指した研究を進めている.
植物のPPR型RNA編集因子のC末端側にはDYWドメインというシチジンデアミナーゼ様配列が存在するが,その酵素活性は証明されていない.最近PPRタンパク質とそれ以外のRNA編集因子が複雑なタンパク質複合体を形成することがわかってきた.
リンパ節でみられるT細胞の高速遊走は,細網線維芽細胞や樹状細胞などが産生する複数の因子と,T細胞の特徴的な移動様式,および細胞が高密度に集積した独特の組織微小環境によって成立している.
生後発達期の動物の神経回路再編成のモデルである,小脳の登上線維‒プルキンエ細胞シナプスの刈り込みとその分子メカニズムについて概説するとともに,最近の成果を紹介する.
Nrf2は毒物や酸化ストレスに応答して生体防御能を発揮する転写因子である.Nrf2の活性を制御するメカニズムを遺伝子改変マウスの病態解析から解き明かし,生体が持つ生来の防御機能を明らかにする.
マイクロチップを利用したバイオ分析は,従来の生化学計測の感度や効率を高め,革新的な分析技術を実現している.本稿では,膜タンパク質の高感度機能分析のためのマイクロチップを紹介するとともに,それらが実現する生化学分析の近未来像を提示したい.
エピジェネティック制御は,糸状菌の多様な二次代謝物の生産に関わる生合成遺伝子の発現をグローバルに制御していた.本稿では,糸状菌二次代謝とエピジェネティック制御の研究から新規天然物探索への応用について,我々の結果を含めて概説する.
マラリアは今なお多くの死者を出す世界最大規模の感染症である.宿主免疫とマラリア原虫が織りなす複雑な病原性の理解は困難で,特に,腸管病態はほとんどわかっていない.本稿では,マラリアにおける腸内細菌の病態に与える影響をサマリーした.
筆者らは,アトピー性皮膚炎に伴って脊髄後角で長期活性化するアストロサイトと,同細胞から産生される因子がかゆみの慢性化に重要な役割を果たしていることを明らかにした.この成果は慢性掻痒メカニズムの解明へ向けた大きな一歩となった.
抗炎症薬はCOPDに適用されているが,副作用や耐性を生じる.我々は,細胞の恒常性をつかさどるフィードバック機構と抗炎症薬との関係性の一端を明らかにした.本稿では,COPD治療薬ステロイドおよびPDE4阻害剤による細胞内フィードバック制御機構について概説する.
Mycobacterium avium complexの感染宿主脾臓において誘導される免疫抑制性および Th17細胞分化誘導能を有するユニークなマクロファージポピュレーションについ て,マクロファージの分極化との関連から概説する.
キトサン加水分解酵素のC末端に存在するキトサン結合モジュールが,キトサンの“尻尾”,つまり非還元末端糖残基の狭い領域だけを認識しているにも関わらず,密な水素結合ネットワークと静電的相互作用を通して,標的を強く捕らえることがわかった.
発光酵素ルシフェラーゼは,発光強度が低くマルチカラー化も困難であるという欠点のため,イメージングへの応用は限られていたが,筆者らはこの問題を蛍光タンパク質へのエネルギー移動により解決した.これを利用した発光イメージングの実際について詳述する.
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