ミトコンドリアは真核細胞の細胞小器官(オルガネラ)であり,細胞内エネルギー代謝の中心的な機能を担うことから,古くから生化学的な研究が活発に行われてきた.一方で近年はメタボローム解析などの技術発展と,定量的なオミクス解析などから,ミトコンドリアはさまざまな細胞応答の制御や多様な物質の代謝を含む多彩な機能を持っていることが明らかになりつつある.このようにミトコンドリアは多くの機能を同時に果たすきわめて重要なオルガネラであるが,その多面的な機能・特性がどのように統合的に調整されているか,その高次的制御に関してまだ多くが謎のまま残されている.現在,神経変性疾患・代謝疾患などさまざまな病態や老化でミトコンドリア機能の低下・破綻が生じることがわかってきている.つまり,ミトコンドリアの機能とその制御に関わる個別の分子機構や酵素反応を生化学的に理解し,またその細胞内での統合的かつダイナミックな制御を知ることは,多様な疾患に対する治療戦略の構築や創薬への応用にとって大きな意義を持つ状況となっている.そこで本特集では,現在注目すべきミトコンドリア特性の研究の最先端を多面的に紹介する.
ミトコンドリアは細胞代謝の主要な場とされるが,本稿ではまず,その具体的な代謝経路についてまとめた.さらに,最近我々が開発した,単離ミトコンドリアを利用した新しいメタボロミクスの方法論についてその一部を紹介する.
異なるオルガネラ間が接触して形成されるメンブレンコンタクトサイトのさまざまな役割が明らかになりつつある.ミトコンドリアの正常な機能も他のオルガネラとの連携が不可欠である.本稿では,ミトコンドリアを中心としたオルガネラ間の連携について紹介する.
ミトコンドリア動態の,胚発生や組織の発達,細胞分化,さらに細胞のリプログラミング(初期化)における役割や意義についてシグナル経路との関連を含めて概説する.
障害を受けたミトコンドリアは,ミトコンドリア品質管理機構によって選択的に分解される.本稿では,細胞内環境に応じたミトコンドリア品質管理の制御に着目し,細胞質のcAMP/PKAシグナル経路を介した制御機構について紹介する.
ミトコンドリアDNA(mtDNA)の突然変異によって引き起こされるミトコンドリア病は全身性の多臓器疾患であるが,その病態発症機構には未解明な部分が多く残されている.ヒトにおける疾患症状と,モデルマウスを用いて明らかになった機構の一部を紹介する.
ミトコンドリア機能の中でも生体内のエネルギー産生能を評価する方法としてミクロからマクロにかけて,ミトコンドリアの形態・内膜電位・Ca2+動態・ATP計測,さらにはエネルギー代謝フラックス計測を中心に紹介する.
ミトコンドリア呼吸鎖複合体の一つであるチトクロムcオキシダーゼの活性調節を標的とした治療法開発についての我々の取り組みを紹介する.
寄生虫は,昆虫/巻貝等の媒介生物から哺乳類へと劇的に変わる寄生環境に適応するため,ミトコンドリア代謝を巧妙に変化させる.本稿では蠕虫と原虫のミトコンドリア代謝の多様性に着目し,抗寄生虫創薬と寄生虫酵素を用いた(ヒト疾患に応用可能な)解析ツール開発について紹介する.
ミトコンドリアはダイナミックに形態を変化させる多機能オルガネラであり,エネルギー産生のみならずさまざまな細胞応答にも関与する.ミトコンドリアの形態制御因子Mffに着目することで,代謝と抗ウイルス自然免疫応答との機能連携が明らかになってきた.
環境温度を感知する分子として知られる温度感受性TRPチャネルは,感覚神経以外のダイナミックな温度変化に曝露しない深部組織にも発現しており,生体内のさまざまな温度依存性機能に関わっていることが明らかになりつつある.
タンパク質分解技術を基盤とする創薬が注目を集めている.PROTAC,SNIPER,E3モジュレーターなどさまざまな化合物によるタンパク質分解機構と,これらの技術を基盤とする創薬について紹介する.
真核生物のゲノムDNAはクロマチン構造を形成して機能している.その基本構成要素であるヒストンタンパク質には,亜種であるヒストンバリアントが存在する.ヒストンバリアントがクロマチンの構造と機能に与える影響について紹介する.
CAPS2は,神経ペプチドや神経栄養因子などを含有する有芯小胞の開口放出を制御するタンパク質である.本稿では,社会性ペプチドや愛情ホルモンとして近年注目されているオキシトシンのCAPS2による分泌制御と社会行動との関連について概説する.
核膜を貫く核膜孔複合体は,核と細胞質をつなぐ唯一の分子ゲートであり,多彩な生命現象を支える.核膜孔複合体の構造・機能の多様化は,発生・分化やさまざまな疾患の制御要因である.核膜孔複合体の作動原理の理解により,高次生命現象の解読が期待される.
Xkr4はアポトーシス時に細胞表面にホスファチジルセリンを露出するスクランブラーゼであるが,その活性化機構は明らかではなかった.本稿ではXkr4の活性化因子の同定に至るまでの過程とその活性制御機構,および生体における役割について論ずる.
中枢神経においてAMPA型グルタミン酸受容体(AMPAR)は興奮性神経伝達を担い,その動態変化が記憶・学習に深く関与する.我々は,神経細胞に内在的に発現するAMPARを迅速に蛍光ラベル化する方法を開発し,その動態解析に成功した.
「細胞の凍結保存剤」および「非水溶性の薬剤の溶媒」として利用できる,低毒性な新規溶媒として“双性イオン液体”を提案した.双性イオン液体は,現在のゴールデンスタンダードであるジメチルスルホキシド(DMSO)を超える性能を発揮した.
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