RNAは遺伝子発現の中心的な役割を果たす分子であり,分子生物学の黎明期から研究が進められてきた.RNA研究における数々のブレークスルーが生物学や生命科学の発展を牽引している.二年連続でRNA分野にノーベル賞が授与されたことも記憶に新しい.近年は,分析技術の進歩により,RNAに存在する多様な転写後修飾が次々と発見され,これが転写後の遺伝子発現や高次生命機能,さらには疾患発症において重要な役割を果たすことが明らかになってきた.また,RNA修飾を応用した医薬品開発は,次世代医療の不可欠なモダリティとなりつつある.さらに,RNAを用いたゲノム編集,転写制御,タンパク質翻訳制御の各分野でも近年,顕著な進歩がみられる.たとえば,リボソームプロファイリング技術により,コドンレベルでの翻訳解析が可能となり,これによって多様な生命現象や疾患発症のメカニズムが解明されつつある.また,多様なRNAがエピトランスクリプトミクス制御において重要な役割を果たしていることも明らかになりつつある.本特集では,RNAを軸とする生物学,病態生理学,免疫学,応用生命科学の最前線で活躍する研究者に執筆を依頼し,RNAバイオロジーにおける最新の話題を紹介する.
ヒトや脊椎動物のtRNAにはガラクトースとマンノースが付加した修飾が含まれて いるが,その機能は半世紀近く不明であった.最近筆者らは2種類の糖転移酵素を 同定し,その生合成機構,タンパク質合成における機能および生理機能を解明した.
最近の研究により,原核生物のトランスポゾンにコードされたIS110リコンビナー ゼはブリッジRNAと協働し,相補的なドナーDNAおよびターゲットDNAの間の組 換え反応を触媒することが明らかになった.
mRNAの塩基配列をタンパク質へと変換する翻訳過程の異常は,タンパク質恒常性 の破綻を招く.本稿では,異常翻訳を認識し,その産物(新生ペプチド鎖)・基質 (mRNA)・装置(リボソーム)を排除する品質管理機構に関する最新の知見を紹介 する.
真核生物のミトコンドリア内には,細胞質タンパク質合成系とは異なるもう一つの タンパク質合成系が存在する.本稿では,ミトコンドリア翻訳を研究するために開 発・発展してきた次世代シークエンス技術に焦点を当て,その最新の活用例を紹介 する.
宿主は核酸に対して自己・非自己を識別し,自然免疫を制御する重要な役割を担っ ている.本稿では,RNA修飾に関連する自己・非自己認識機構や,その破綻が引き 起こす免疫異常と病態について,最新の知見を解説する.
本稿では,DNA・RNA高次構造の一つであるグアニン四重鎖(G-quadruplex: G4) の概要とその同定法,これまでに報告された生物学的機能「G4バイオロジー」につ いて述べ,筆者が取り組んでいる神経疾患との関連性について紹介する.
感染症ワクチンや遺伝子治療などさまざまな分野での利用が期待される人工mRNA だが,安定性の低さやタンパク質発現強度の不足など,解決すべき課題は多い.こ こでは,それらの問題に対する多様なエンジニアリング戦略について概観する.
ヒトのtRNAは転写後に40種類以上の修飾を受ける.修飾酵素の変異は翻訳異常を 介してさまざまな疾患を引き起こし,中でも神経疾患の原因変異が最も種類が多い. 本稿では,このような神経の「tRNA修飾病」の全容と最新の知見を紹介する.
生命現象のさまざまな場面で重要な役割を果たす非コードRNAは,転写制御マシナリーの中核因子としても機能する.本稿では特に,効率的かつ特異的なハイブリダイゼーション反応を用いて配列特異的な転写制御を引き起こす小分子RNAに焦点をあてる.
RIG-I様受容体によるウイルスRNAの認識機構に関する生化学的・構造生物学的知 見,およびRNA修飾や翻訳後修飾,そのほかのコファクタータンパク質を介した抗 ウイルス応答の厳密かつ階層的な制御機構の紹介.
本稿では,ヘテロな細胞集団の大量解析の重要性と技術的アプローチを概説する. ウェル型解析の制限を克服するため,マイクロ流体技術を用いた微小区画化技術の 開発が進んでおり,1 細胞レベルでの機能解析や多細胞体解析への応用を議論する.
RIG-I様受容体によるウイルスRNAの認識機構に関する生化学的・構造生物学的知 見,およびRNA修飾や翻訳後修飾,そのほかのコファクタータンパク質を介した抗 ウイルス応答の厳密かつ階層的な制御機構の紹介.
Golgi体に集積したCdc42 C末端変異体は,pyrinインフラマソームの形成促進と STINGの活性化を通じて,IL-1β/IL-18,およびI 型インターフェロンを主体とする炎 症病態を引き起こす.
超希少疾患の集合体である小児期発症の胆汁うっ滞性肝疾患は,原因や臨床経過が 多様であり,治療法のない難治性疾患も多く含まれる.本稿では,病態メカニズム 理解と治療法開発に関する現状,および課題解決に向けた取り組みを紹介する.
RAD51は真核生物の相同組換えにおいて中心的に働くタンパク質である.本稿で は,真核生物のクロマチン上において,RAD51が触媒する相同組換えの開始機構に ついて,RAD51とクロマチンとの複合体の構造解析を中心に紹介する.
出芽酵母ではDNA複製開始を16種類の精製タンパク質で再現できるが,Sld2のみ 高等真核生物におけるオルソログが未同定であった.今回,ヒト小頭症原因遺伝子 産物DONSONが複製開始においてSld2様の働きを持つことを明らかにした.
我々は,オルガネラ選択的分子標識法とフローサイトメトリーを融合したO-ClickFC を開発し,CRISPRスクリーニングへの適用により,ホスファチジルコリン代謝動態 に重要な遺伝子を網羅同定した.本技術および関連する知見について今回概説する.
近年,異なるオルガネラ膜が近接したオルガネラ膜コンタクトサイトが細胞機能に 重要な役割を持つことが明らかとなり注目されている.本稿では,オルガネラ間コ ンタクトサイトに局在するタンパク質の空間特異的ビオチン化ラベリング手法につ いて解説する.
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