新しい解析方法の進歩を基礎とて,現在研究者の関心が高まっている,「代謝変化」と「エピゲノム制御」という二つの枠組みを合わせて考えることで,今後の生物研究の道標とできればと今回の企画を考えました.
それぞれの専門の先生方からは「これのどこが代謝なのか」,「これはエピゲノムと関係ない」という声も十分に予想しております.私自身はそれぞれの分野の先生方と共同研究をさせていただいている無責任な立場だからこそできた企画かもしれません.
「代謝変化」と「エピジェネテイック制御」は互いに離れたカスケードの複数の分子に作用して,生物現象や疾患を関連づける点で共通性があります.
全体を通して読んでいただくと,生物という器のなかで,遺伝子か
らのセントラルドグマの縦糸に横糸と奥行きを持つ全体像が現れています.ご協力いただいた先生方に深く感謝申し上げます.
今回の内容はこのテーマの一端にすぎません. すでに掲載された「生化学」の関連の総説を合わせてお読みいただくことをお薦めします.
Idh1変異マウスの解析から明らかとなった,D-2-ヒドロキシグルタル酸のα-ケトグルタル酸依存性ジオキシゲナーゼ阻害効果について解説し,その生理的な影響や,エピジェネティックな変化を通じた発がん・がん進展機構について考察する.
解糖系制御の破綻によって引き起こされるがん化メカニズムとして,HK2,PKM2以外にも,Mdm2によるPGAMユビキチン化を介した分子制御を概説した.
酵素活性が酸素濃度によって制御されるプロリン水酸化酵素PHDは細胞内酸素濃度センサーとして低酸素応答を制御している.本稿ではPHDによる細胞内エネルギー代謝制御機構のなかでも,最近の筆者らの研究内容を中心にご紹介させていただきたい.
転写制御のみならず,代謝はさまざまな転写後調節を介しても遺伝子発現に影響する.本稿では,主に代謝によるRNA動態の制御と,代謝による転写後・翻訳後調節を介した細胞表現型の制御について,昨今の知見や筆者の最近の研究結果を交えて概説する.
近年,ヒストン修飾などのエピジェネティクス制御と造血機構の維持・調節との関連が明らかになりつつある.本稿ではヒストンH3Lys36脱メチル化酵素であるFBXL10の脱制御による細胞内エネルギー代謝異常,白血病発症に関する知見を紹介する.
RNAエピジェネティクスが注目され,RNAの脱メチル化を担う酵素ALKBHファミリー分子の存在も明らかになってきた.RNAエピジェネティクスの生物学的な機能解明とALKBHファミリー分子を標的とした治療創薬への展開がますます期待される.
近年,翻訳の中心分子であるtRNAに多彩な転写後修飾が見いだされ,新たな翻訳調節機構として注目されている.本稿では細胞質およびミトコンドリアに存在するtRNAチオメチル化修飾に注目し,その分子機能および代謝疾患との関わりについて総説する.
200以上の分子と結合するRBがん抑制遺伝子産物には,よく認知された細胞周期制御機能や最終分化制御機能の他に多様な機能が備わる.RBの非古典的な機能のうち,細胞未分化性の制御に関わるものとその代謝・エピジェネティクス機序を中心に論じる.
筆者らは記憶中枢の海馬神経が男性・女性ホルモンを合成し,これらが神経シナプスにnon-genomicに作用して,シナプス数や記憶の長期増強を制御する経路を明らかにした.20年以上の研究経過を説明し,今後の抗加齢医学への展開も述べる.
糖脂質は疎水性側鎖と親水性糖鎖を持つ両親媒性分子である.両構造は生物種や組織により独特であり,それぞれの生物の生息環境に適応するとともに組織固有の役割に関わっている.糖脂質の構造と機能について今までの研究を概観する.
スフィンゴ糖脂質はセラミドと糖鎖部位からなる両親媒性の独特な分子群で,主に細胞膜の脂質ラフトに発現し,cisあるいはtransにさまざまな分子と相互作用し,細胞シグナルの調節に働く.それらの動態と作用機構に関する先端情報を概説した.
二重特異性抗体は唯一認可例のある非天然型の人工抗体の形態である.我々は,その開発過程において,たとえばわずかな構造の違いが,機能に大きく影響を及ぼしうることなどを見いだした.本稿では,これら機能的構造形態に着目した最近の研究成果を紹介する.
抗菌薬開発が一段落し「ポスト抗菌薬時代」に入ったと言われる.薬剤耐性菌の出現と蔓延は感染症治療の深刻な課題となっており,WHOや主要国首脳会議でも抗菌薬使用制限が提言されている.本稿では,MRSAの薬剤耐性化メカニズムを中心に最近の知見を紹介する.
神経発生過程でのシナプス分化は,シナプスオーガナイザーと呼ばれる膜受容体様接着分子群がトランスシナプティックな相互作用をすることによって誘導される.スプライシング依存的に制御されるこの相互作用の詳細なメカニズムについて概説する.
がん細胞における代謝リプログラミング機構の多くはストレス応答性転写因子による代謝酵素群の発現上昇によって説明されてきたが,近年では代謝酵素自身の翻訳後修飾による寄与も注目されている.本稿では,解糖系酵素の翻訳後修飾により,どのようにがん細胞の代謝が制御されるかを概説する.
細胞表面に発現する糖タンパク質/糖脂質の糖鎖は,細胞間相互作用やシグナル伝達の修飾などを介して,細胞機能を調節すると考えられている.中でも,幹細胞の未分化性維持に関わる糖鎖としてLewisXに注目し,その発現制御や機能を探った.
シャペロンによって仲介されるタンパク質の折りたたみ,輸送,分解は,その動的な性質から詳細な分子機構が不明である.本稿ではシャペロン,特にトリガーファクターシャペロンによる基質タンパク質の認識機構について最近の研究を紹介する.
コレステロール生合成に関わるスクアレンシンターゼの阻害剤が,培養細胞におけるC型肝炎ウイルス(HCV)粒子産生阻害することを見いだした.本稿では宿主コレステロール生合成系を標的とした抗HCV戦略を紹介する.
細胞形態変化や細胞走化性等に関係し,GPCR刺激時に遊離する三量体Gタンパク質Gβγサブユニットとの直接的な相互作用により活性化されるRhoファミリー低分子量Gタンパク質特異的グアニンヌクレオチド交換因子について概説する.
細胞質RNAセンサーRIG-Iがヒト肝細胞においてB型肝炎ウイルスに対する自然免疫センサーとしてのみならず直接的な抗ウイルス因子としても機能することを見いだした.C型肝炎ウイルスに関する知見も併せ,自然免疫認識機構及び回避機構について概説する.
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