核酸,タンパク質と糖鎖は生体内の三大ポリマーである.ゲノミクス(核酸),プロテオミクス(タンパク質)という基盤に,グライコミクス(糖鎖)という新次元のオミクスを加えることで,初めて我々は統合的な解析ステージに立ち,真の生命理解が成し遂げられる.グライコミクス技術の進展により,この統合が可能な時代を迎えようとしている.その実現のためには,例えばHuman Genome Projectのように,やがて国家のレガシーとして皆が利用でき,科学を急速に発展させ,社会の発展に資する設定が重要であると考えられる.本特集ではHuman Glycomeに関わる世界の動静と協調を背景に,いくつかの分野のグライコミクスの現状や技術開発をまとめ,近未来の礎としたい.
ヒトゲノムが解読され,2万余種のタンパク質しか体に存在しないと知ったとき,タンパク質や脂質に無限に近い多様性を与え,自らも機能を担う糖鎖を無視できないことに,研究者たちは気づき始めている.この中で,ヒトの糖鎖の網羅的解析が進もうとしている.
これまでに構造決定されたヒトミルクオリゴ糖(HMOs)の化学構造,濃度,解析されたビフィドバクテリウムによるHMOs代謝経路と腸内細菌叢への調整,ならびに抗感染,抗炎症,壊死性腸炎予防,脳機能活性化,栄養改善効果などのHMOsによる機能性を解説する.
本稿では,スフィンゴ糖脂質のLC-MS/MSによる分子種多様性の解析,ガングリオシド合成酵素の細胞内動態,摂食およびコレステロール吸収におけるガングリオシドの役割,そして自然免疫におけるGM3分子種の役割について述べる.
細胞表面の糖鎖があらゆる生命現象に重要な役割を有するように,細胞外小胞表層糖鎖も同様の機能を持つと考えられるが,いまだ不明な点は多い.近年明らかになってきたその働きについて,我々の研究成果も含めて最新の情報を紹介する.
ヒト健康状態の変化を反映して変動する血しょうおよび血清N-グライコームについて概説し,N-グライコミクスに基づいた健康長寿のマーカー探索や長寿メカニズム解明にアプローチする研究について紹介する.
ゲノムやプロテオームに加えて,グライコームの導入は,種々の生物学的現象の理解を格段に進める鍵である.我々は最近,全生物に先立ち,世界初のゼブラフィッシュ成魚の全組織グライコームドラフトをリリースした.その解析結果の概略と成果を概説する.
構造の多様性を持つ糖鎖は核酸やタンパク質に比べると構造解析が格段に難しい.本稿ではさまざまな複合糖質糖鎖の一次構造解析法と技術を統合した総合グライコーム,そして最近の新しい糖鎖解析技術について我々の研究を交えて概説する.
糖鎖の立体構造・運動性や相互作用様式を調べる糖鎖構造生物学は,糖鎖の機能を 視覚的に理解させてくれる.本稿では糖鎖の立体構造・運動性・相互作用について概説し,糖鎖の立体構造や相互作用をQ&A形式でまとめ,立体構造解析技術の現状と展望を述べたい.
生体試料から研究に必要な高純度糖鎖を得ることは非常に困難なため,これまで糖鎖を精密に化学合成する手法が開発されてきた.本稿では,酵素法,化学法,酵素と化学法を合わせた半合成による簡便な糖鎖の合成法を紹介する.
糖鎖迅速解析システムとして2006年に上市されたレクチンマイクロアレイは疾患関連糖鎖マーカーや治療用細胞の品質管理に有効な技術である.開発着想から20年を迎える本技術の原理,開発経緯を振り返り,医療診断領域における実例と今後の展望を述べる.
近年,糖鎖構造のリポジトリGlyTouCanの開発や日本,米国と欧州を含むGlySpace Allianceの設立により,糖鎖情報の統合が大きく発展してきた.糖鎖インフォマティクス分野の概要を紹介し,システムバイオロジーや人工知能の糖鎖インフォマティクスへの影響について解説する.
回転モーターである細菌べん毛は,約30種類のタンパク質が数万個集合して構築され,毎秒数百回転することが可能である.本稿では,べん毛の構造構築・回転力発生機構の解明を目指した我々の研究を中心に紹介する.
タンパク質架橋酵素トランスグルタミナーゼは細胞内外で生存に必須の役割を果たす.本稿ではショウジョウバエにおける本酵素の生理機能とその分泌の分子機構について紹介する.
細胞内から受容体型チロシンキナーゼを活性化する仕組みとして,セリン/トレオニン残基のリン酸化による非定型的活性化機構が明らかになってきた.リガンドやチロシンキナーゼ活性に依存しておらず,新しい活性化機構として腫瘍内における役割が注目される.
RNA修飾の世界は,エピトランスクリプトミクスと呼ばれ,転写後段階における新しい遺伝子発現調節機構として,生命科学に大きな潮流を生み出している.RNA修飾の欠損が疾患の原因になることも明らかになりつつあり,RNA修飾病という概念が生まれつつある.
低分子量Gタンパク質Rabの生理機能について,ノックアウト解析によって明らかになった最近の知見を概説するとともに,筆者らが樹立したRabの網羅的なノックアウト細胞株コレクションについて紹介する.
血管は内腔を一面に張り巡らす血管内皮細胞と,その基底膜側から血管構造を支える血管壁細胞からなる.既存血管の血管内皮細胞によるターンオーバーによる血管の修復以外にも,組織損傷の大きさによっては,血管内皮幹細胞様の細胞が新しい血管の形成に関わっていることが判明してきた.
自然免疫受容体TLRは疾病ストレスや非感染性の慢性ストレスによるうつ様行動において重要な役割を担う.TLRは内側前頭前皮質ではミクログリアからの炎症性サ イトカイン産生を,皮質下ではPGE2産生を促して,うつ様行動を誘導することが示された.
任意の標的配列に対して特異的に変異導入を可能とするゲノム編集技術を植物でどのように活用すべきか,その鍵となる技術として,多様な植物種や品種などに対応した技術の最適化や植物細胞への導入方法など,植物ゲノム編集技術の最新の知見について紹介する.
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