インポーティンβファミリー輸送因子は,核‒細胞質間に並列な輸送経路を構成してタンパク質やRNAを運搬する.タンパク質やRNAの核‒細胞質間局在の変化はさまざまな細胞活動の要因となり,生命現象の中でこの輸送経路が果たす役割は大きい.
核‒細胞質間輸送分子インポーティンαは,複数のサブタイプからなるファミリーを形成する.これら分子の基質特異性や組織特異的発現が,ストレス応答や器官発生,疾患などさまざまな高次の生体制御機構に関わることが明らかになってきた.
生物にとって老化は避けて通れない現象である.これまで老化について分子細胞生物学的な側面から多くの研究報告がなされてきた.今回,最近の知見を基に,核‒細胞質間輸送制御の視点から,老化の過程で何が起きているか,その分子メカニズムを捉えたい.
さまざまな細胞ストレスによって,核‒細胞質間輸送効率が変化する.Hikeshiは,熱ストレス時に分子シャペロンHSP70を核に輸送する運搬体分子である.ストレス時の核‒細胞質間輸送とHikesniの機能について紹介する.
植物の核‒細胞質間輸送システムを担う分子群の同定が進み,それらの生理学的役割が明らかにされつつある.本稿では最近明らかになってきた核‒細胞質間輸送システムが支える植物の個体発生や環境シグナリングの制御機構を紹介したい.
CRM1は核外輸送シグナルを持つ輸送基質を核から細胞質に運び出す核外輸送受容体である.本稿ではCRM1による輸送の基本メカニズムの解明について,最新の構造生物学的知見を紹介する.さらに,新規抗がん剤の開発など創薬への応用についても紹介する.
近年のプロテオミクス技術の進歩により,巨大で複雑な核膜孔複合体の構成と翻訳後修飾に関する知見が集積してきた.本稿では核膜孔複合体構成因子のさまざまな修飾による核‒細胞質間輸送などの調節機構について,筆者らの研究も含めて解説する.
核膜孔複合体内部は疎水基と親水基および水が複雑なクラウディング環境を形成している.インポーティンβをはじめとする構造的に柔軟な両親媒性構造を持つタンパク質は,そのクラウディングを通り抜けるのに適した構造的性質を有している.
蛍光を発する量子ドットのバイオ応用の重要性が増している.本稿では,CdTe/ZnS量子ドット(QDs)の表面を糖鎖修飾することで,QDsが核移行するという筆者らの知見について紹介する.
異なる種類のRNAは異なる経路で核外輸送される.真核細胞やそれに感染するウイルスはRNA核外輸送複合体形成の制御を通じて,適切な経路を誘導するだけではなく不適切な経路の利用を抑制する.この両方が機能することで正常な遺伝子発現が保証される.
メッセンジャーRNAの核外輸送は,真核生物の遺伝子発現における必須のプロセスである.本稿では,転写やプロセシング過程と共役したmRNA核外輸送複合体形成の分子機構について概説する.
筆者らは,水素が新しい概念の抗酸化物質であり,疾病予防や治療に応用できうることを提唱した.さらに水素は,遺伝子の発現を制御することで抗酸化作用を示す上,抗炎症作用,抗アレルギー作用,抗アポトーシス作用を示し,エネルギー代謝を活性化させる.
エンドソームから発信されるRas-PI3Kシグナルはエンドサイトーシスを促進し,外来因子の細胞への取り込みを制御する.インフルエンザウイルスは細胞内カルシウム濃度を上昇させることでこの機構を活性化し,細胞に侵入する.
DNAのA‒TとG‒Cの塩基対に新たな第三の塩基対(人工塩基対)を加えて遺伝情報を拡張する研究が,合成生物学の領域で急速に進んでいる.本稿では,複製や転写で機能する人工塩基対が創出されるまでの歩みと最近の人工塩基対技術の応用例を解説する.
ヒトで豊富な自然免疫型T細胞であるMAIT(マイト)細胞についてその性状ならびに機能を解析する方法を開発した.MAIT細胞は増殖能を有しないためiPS細胞からMAIT細胞を分化誘導し,その機能を解析したところ,静菌能を有することが示された.
生体や細胞がストレスに対して適切な応答を誘導するためには,シグナルの時間的・空間的制御によって生み出される多様なバリエーションが必要だが,その仕組みにはユビキチン化関連酵素を介したリン酸化シグナルの厳密な制御が重要であることがわかってきた.
社会や環境から受けるストレスは情動変容を引き起こすが,そのメカニズムには不明な点が多い.近年,マウスの反復社会挫折ストレスによる情動変容に,アラキドン酸由来の生理活性脂質PGE2とその受容体EP1による前頭前皮質ドパミン系抑制が重要であることが示された.
>12-HHTはアラキドン酸由来の炭素数17の不飽和脂肪酸であり,長い間生理活性を有さないトロンボキサン合成時の単なる副産物と考えられてきた.我々は12-HHTがBLT2受容体の生体内リガンドであり,皮膚創傷治癒を促進することを明らかにした.
近年,生理状態が幹細胞や前駆細胞の活動や機能に少なからぬ影響を及ぼすことが明らかにされつつあるが,そのメカニズムは不明な点が多い.本稿では筆者らの線虫を用いた研究を中心に,個体の栄養状態に応答した細胞休眠制御機構を紹介する.
多種多様な動物の能力は大脳皮質の機能マップの違いによって生み出される部分が大きい.どのように脳がしなやかに生息環境に合わせて変化できたか,進化的に保存された大脳皮質の領域化と神経活動依存的な樹状突起形成の分子基盤を合わせて紹介する.
発光カイアシ類(海洋プランクトン)から単離されたルシフェラーゼは,分泌型で強い発光シグナルが得られることから近年種々のバイオアッセイへの応用が報告されている.本稿では,カイアシ類ルシフェラーゼの特徴,研究の歴史,応用,分子進化を概説する.
ミトコンドリアは,細胞内における抗ウイルス自然免疫の中心的な場として注目されているオルガネラである.本稿では,インフルエンザウイルス感染により宿主内でつくられるウイルスタンパク質とミトコンドリアとの相互作用についての研究知見を紹介する.
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