プロテインホスファターゼは,細胞増殖,分化,運動,接着など多彩な細胞機能の制御に関与している.生体内情報伝達の中心的役割を担うタンパク質リン酸化の制御異常は,がんを含む多様な疾患と深く関連している.最近,geneticおよびroteomic解析やマウスレベルでの解析に基づき,プロテインホスファターゼの新たな生理機能や疾患との関連性が次々と明らかとなっている.また,抗がん剤や疾患治療薬を目指した各種プロテインホスファターゼに対する分子標的薬開発も精力的に展開されている.
本特集では,プロテインホスファターゼ研究分野で世界的に活躍されている方々に執筆を依頼し,プロテインホスファターゼの新規な活性制御機構やシグナル伝達制御機構における基礎研究から,疾患との関わりや臨床応用への取り組みまで,プロテインホスファターゼに関する最新知見と新展望について紹介する.
本特集をとおして,プロテインホスファターゼの魅力を知っていただき,読者の分野で「プロテインホスファターゼ」を考えるきっかけにしていただければ幸いである.末筆ながら,本企画に御賛同いただき執筆していただいた先生方に深く感謝申し上げます.
マウス皮膚に腫瘍を発生させるには,DMBA投与後にTPAを反復投与することが必須である.しかし,Ppp6c欠損皮膚ではDMBAのみで早期に腫瘍が発生した.Ppp6c欠損細胞は発がん物質に対して易発がん状態にあることが示された.
RNA顆粒の“シグナル伝達制御拠点”としての役割が注目を集めている.しかも,RNA顆粒の機能・形成不全はがんや神経変性疾患の病態とも密接に関わる.本稿ではカルシニューリンシグナルとRNA顆粒制御の関わりについて最新の成果を紹介する.
PPMファミリーは,ストレス応答,細胞周期,細胞骨格など,多彩な細胞機能の制御に関わっている.近年,ゲノム解析法などの発展に伴い,がんをはじめとするさまざまな疾患の発症や病態において果たす役割に関する理解が急速に深まってきている.
p53誘導性ホスファターゼPPM1D(Wip1)は,多様ながん細胞において遺伝子増幅・過剰発現がみられ,抗がん剤の標的として注目を集めている.本稿では,PPM1D異常による細胞がん化機構や,PPM1Dを標的とした最新の抗がん剤開発について紹介する.
近年,受容体型プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)の機能解析が進んでいる.筆者らの研究から,R5 RPTPサブファミリーのPTPRZが脱髄疾患,またR3RPTPサブファミリーが肥満・糖尿病の創薬標的となることが明らかになった.
遺伝子改変マウスやヒトゲノム解析によりR3サブタイプチロシンホスファターゼの生理機能,その遺伝子異常や一塩基多型がヒト疾患と関連することが明らかとなってきた.本稿ではこれらチロシンホスファターゼについて最新の知見を含め紹介する.
ヘリコバクター・ピロリ感染は胃がん発症の最大のリスク因子である.ピロリ菌が保有するがんタンパク質CagAは細胞内チロシンホスファターゼSHP2と,またVacA毒素は受容体型チロシンホスファターゼRPTPα/βと相互作用し,胃上皮細胞のがん化を促す.
ガングリオシドの発現異常はさまざまな病態に関係し,その細胞特異的発現制御機構の解明が重要であることは論を待たない.本稿では,ガングリオシドの関与する恒常性維持と破綻の分子メカニズムについて筆者らの30年にわたる研究の軌跡について述べる.
ヒト多能性幹細胞からの胚性内胚葉性組織の分化誘導方法について最新の成果を取り上げた.胚性内胚葉の分化誘導研究は主に膵臓・肝臓について行われてきたが,最近では発生学的知見を応用した小腸,胃,肺,甲状腺などの分化誘導方法も確立されてきている.
堆肥から分離した好熱菌のmeso-ジアミノピメリン酸脱水素酵素の基質認識に関与アミノ酸残基に変異を導入して,D-アミノ酸を基質とする耐熱性D-アミノ酸脱水素酵素の創製に成功した.その酵素を用いる新規D-アミノ酸の酵素合成法と酵素分析法を開発した.
生体内に存在するがん抑制分子を探索し,細胞の遊走に関与するケモカインCXCL14が移植がんの増殖を抑制する分子であることを見いだした.CXCL14を過剰発現するトランスジェニックマウスは発がん,転移も抑制する多段階がん抑制分子であった.
リソソーム病に対するシャペロン療法とは,リソソーム酵素タンパク質に結合する低分子化合物(シャペロン)を用い,細胞内で変異酵素タンパク質構造を安定化し,酵素活性を上昇させる方法で,経口投与により中枢神経障害を治すことができる新しい治療法である.
核内IκB-ζは,NF-κBを二次的に制御する転写制御因子である.近年,IκB-ζを欠損したマウスの解析により,IκB-ζが生体恒常性維持に重要であることが示された.そこで本稿では,さまざまな細胞種によるIκB-ζの役割について解説を行う.
現在の社会脳(他者を認知・識別し,状況に応じて柔軟に相手に対する行動を選択する高次脳機能)の研究対象は主にヒトやサルであるが,筆者らはメダカを用いて「魚類社会脳」の分子神経基盤の解明を目指しており,本稿では筆者らの最先端の知見を紹介する.
基底膜分子ラミニン-511は上皮細胞を基底膜にしっかりと接着させているが,がん細胞では逆に運動を促進するようになる.本稿では,ラミニン-511の受容体であるLu/B-CAMを中心に,がん細胞の接着および運動におけるその役割について紹介する.
Gタンパク質共役型受容体キナーゼ(GRK)は,Gタンパク質共役型受容体をリン酸化し,脱感作へと導くリン酸化酵素として発見された.本稿では,近年明らかになってきたGRKの新たな細胞内基質および生理機能について紹介する.
エピゲノムの維持・書き換えを担う酵素はいずれも栄養素やその代謝物と協働している.よって,栄養等の細胞外環境に応じた代謝変化はエピゲノム制御に直接的な影響を及ぼす.本稿では,代謝‒エピゲノムクロストークの分子機序について解説する.
転写関連因子複合体がすべての細胞において普遍的に同一の構成因子で形成されているのか,あるいは細胞ごとに異なっているのかはほとんど不明であった.本稿では,最近筆者らが同定した神経細胞特異的なヒストン修飾因子複合体を紹介する.
電位依存性プロトンチャネル(VSOP)は細胞の膜電位変化を感受してプロトンを透過するチャネル分子である.VSOPが最小のイオンであるプロトンの透過を巧妙かつ厳密に制御する機構の一つである漏洩制御機構の秘密が分子内部の二つの疎水性バリアにあることを結晶構造から考察する.
アクチンとアクチン関連タンパク質(Arp)によって構成されるアクチンファミリーは,細胞質でだけでなく細胞核内でも重要な役割を果たしている.クロマチン構造,核内クロマチン空間配置,および核機能構造形成におけるアクチンファミリー分子の機能を紹介する.
細胞内ペルオキシソーム含量はさまざまな要因で増減する.我々は最近,一群のがん抑制因子がリン脂質代謝酵素として作用し,そのうちの一つPLA/AT-3を細胞で発現させるとペルオキシソームが特異的に消失することを見いだし,その分子機構を検討した.
選択反応モニタリングは,タンパク質定量解析におけるイムノアッセイの代替的手法としてこれからの生化学研究者に必須の質量分析法である.解析支援技術の進歩により,適切なノウハウさえあれば比較的容易に取り組むことができる本手法の概要を紹介する.
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