疎水性の高い生体低分子セラミドは,そのままあるいは複合スフィンゴ脂質の骨格として生体膜中に存在する.長鎖塩基と脂肪酸のアミド結合という頑強な結合によって形成されているセラミドは,酸エステル結合中心で成り立っているグリセロ脂質に比べると,化学的に安定である.また,セリンと脂肪酸との縮合反応を初発ステップとするセラミド新規合成経路は,グリセロ脂質の合成経路とはまったく異なる.すべての生物がグリセロ脂質の合成能を持っていると考えられている一方で,セラミドは真核生物では普遍的に合成されているものの原核生物は一部のみが合成する.セラミドの長鎖塩基部分は生物種によって異なっており,それぞれの生物種が進化の過程で最適なものを選択してきたと想像される.本特集では,セラミドが進化の過程で突如現れ,それぞれの生物種に合わせた構造を獲得した生物学的な意義を探るべく,さまざまな生物種のセラミドの知見を紹介する.それらでは,各生物種におけるセラミドの産生の分子機構,代謝,輸送などの基本的な知見とともに,それぞれの生物種固有の役割を紹介する.また,セラミドに関する最新のトピックスについても合わせて取り上げる.
哺乳類に存在するセラミドの多様性,多様性を生み出す分子機構,各セラミドクラスの分解経路,セラミド関連遺伝子の変異が引き起こす遺伝性疾患とノックアウトマウスの表現型から明らかとなった各セラミドクラスの病理的・生理的役割を解説する.
スフィンゴ糖脂質には,糖鎖構造およびセラミド構造の違いにより多様な分子種が存在する.本稿では,セラミド構造の多様性に基づくガングリオシドGM3,スルファチド,グロボシドなどのスフィンゴ糖脂質によるTLR4の機能制御について概説する.
哺乳類には多様な構造のセラミドが存在するが,特に表皮には量,種類ともに豊富なセラミドが存在する.本稿では近年明らかになった表皮におけるセラミドの構造多様性とその産生機構および皮膚バリア形成における役割について紹介する.
セラミドは細胞死を誘導する脂質である.本稿では,セラミド分子種の多様性に着目して,アポトーシス,オートファジー依存性細胞死,ネクロトーシス,パイロトーシスおよびフェロトーシスを含むregulatedcelldeathの制御におけるセラミドの役割をまとめた.
セラミドは細胞死をはじめさまざまな細胞内シグナルを制御する生理活性脂質であり,その制御の異常はいくつかの病態と関連する.本稿では,細胞小器官(オルガネラ)でのセラミド産生に焦点を当て,セラミドシグナル制御の分子メカニズムを紹介する.
エクソソームやマイクロベシクルなどの細胞外小胞は,多くの生理現象や疾患に関係する.本稿では,細胞外小胞の表面膜に豊富に存在するセラミドやセラミド関連脂質が細胞外小胞の生成と機能発現にどのように影響するかについて解説する.
偏性細胞内寄生細菌クラミジアが封入体中で増殖する際,小胞体からゴルジ体にセラミドを運ぶ脂質転送タンパク質CERTをハイジャックする.この巧妙な手口の仕組みを紹介し,クラミジアがセラミドをなぜ必要とするのかについても考察する.
全細菌に占めるスフィンゴ脂質合成細菌の割合は少ないが,細菌由来スフィンゴ脂質は腸内細菌叢から深海の極限環境まで自然界の至るところで見つかり,ヒトの疾患との関連性も指摘されている.細菌スフィンゴ脂質の多様性や生理機能,生合成経路を紹介する.
真核微生物においてセラミド,複合スフィンゴ脂質は正常な生育に必須である.本稿では,出芽酵母を中心に複合スフィンゴ脂質の構造多様性と環境ストレス耐性能獲得に関する最新の知見を紹介する.
寄生原虫赤痢アメーバのシスト形成において,ステージ特異的に合成される超長鎖(炭素数が26以上)のジヒドロセラミドが,細胞膜透過性低下に重要な脂質であり,コレステロール硫酸によってその合成が制御されることが明らかになった.
植物は,動物とは大きく異なるセラミド構造を有し,膜脂質としての本質は共有しながらも,独自の分子機能が発達していることがうかがえる.植物のセラミドおよび親水部の代謝経路と,固有な分子構造が果たす生物学的機能を紹介する.
セラミド関連脂質について,食品成分としての観点から,消化管吸収と機能性に関する知見を概説する.
これまでの認知症マウスモデルは原因遺伝子の過剰発現によって開発されてきたが,さまざまなアーティファクトが示唆される.本稿では,よりアーティファクトフリーな次世代型認知症モデルマウスの開発およびその応用について概説する.
スルホラファンは代表的な転写因子Nrf2の活性化剤として知られるが,今回我々は,スルホラファンが,糖尿病の悪玉タンパク質“セレノプロテインP”の発現をNrf2非依存的なリソソーム活性化によって抑制する新メカニズムを見いだした.
Sox9は哺乳類のオスの性分化に必須の遺伝子である.近年ヒト,マウス,アマミトゲネズミの解析からSox9の発現制御は遠位エンハンサーによるものであることが解明され,そのエンハンサーが機能する際の分子機構の一端が明らかになってきた.
神経細胞の移動は,大脳皮質の層構造を形成するための重要な過程である.我々は,発生期の大脳皮質においてニューロカン,テネイシンC,ヒアルロン酸からなる細胞外マトリクス複合体が,神経細胞の移動に必要であることを示した.
エネルギー代謝に加えて,生体膜リン脂質代謝もまた最近のがん代謝研究のトピックの一つである.本稿では,著者らが見いだしたB細胞リンパ腫の生存戦略におけるリン脂質代謝系の意義を紹介する.
ピリドキサール5'-リン酸(PLP)依存性酵素は,最も汎用性の高い触媒の一つである.近年,著者らは,NAD,SAMを基質とする特異な放線菌PLP酵素SbzPを同定した.SbzPの構造機能,反応機構,関連SAM受入酵素反応について概説する.
睡眠は幅広い生物に保存された行動だが,その制御機構は多くが未解明である.我々は今回,LKB1-SIK3-HDAC4経路が大脳皮質の興奮性ニューロンでは睡眠の質を,視床下部の興奮性ニューロンでは睡眠の量を制御していることを明らかにした.
心臓の管腔形成過程は,遺伝学的な調節に加え,機械刺激情報など遺伝子にコードされない環境因子による調節機構が存在する.本稿では関与が明確であるものの,作用機構の多くがわかっていない機械刺激機構について,最近の知見とともに記述したい.
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