生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

Online ISSN: 2189-0544 Print ISSN: 0037-1017
公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society

アトモスフィアAtmosphere


特集「糖鎖関連遺伝子から眺める疾患」の企画にあたって:企画 佐藤ちひろ,岡島徹也 Special Reviews
Diseases from the viewpoints of glyco-related genes, Sato and Tetsuya Okajima (eds)

糖鎖は主に細胞表面に存在し,細胞を特徴づける顔である.また,タンパク質,核酸とともに三大生命鎖を形成し,細胞と細胞および細胞と細胞外マトリックス間の情報伝達を媒介している.さらに,自己・非自己の識別装置やウイルス感染の足場としても機能する.このような糖鎖の基本機能が解明される一方で,その作用原理は十分に理解されていない.その一つの原因は糖鎖の持つ複雑な特徴にあり,構造多様性に加えて,同じ糖鎖構造が異なるタンパク質に存在したり,異なる糖鎖構造が同じタンパク質上に存在したりする.たとえば,タンパク質の欠損は同時に修飾糖鎖の欠損でもあり,その表現型の原因をどちらに帰結するかは問題である.実際,糖鎖の複雑さは,しばしば研究を難しくしてきた経緯を持つ.このような研究状況の中で,近年,さまざまな研究領域で新しい展開をもたらしている大規模ゲノム解析は,糖鎖機能の原理の解明においても変化をもたらしている.特に疾患研究領域では,統合失調症,アルツハイマー,筋ジストロフィーに糖鎖関連遺伝子の変異が関わることが次々に明らかにされ,糖鎖機能の新たな側面が見え始めている.今回の企画では,糖鎖遺伝子から眺める疾患というタイトルのもと,さまざまな疾患と糖鎖およびその関連遺伝子に着目して研究をしている方々に最新のレビューをお願いする.生化学誌の読者に糖鎖の新しい風を感じていただきたい.

哺乳類におけるリビトールリン酸含有糖鎖の発見とO-マンノース型糖鎖の生合成機構の解明Identification of ribitol-phosphate in mammalian O-mannosyl glycan and its biosynthetic mechanisms

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890605

O-マンノース型糖鎖の異常は先天性筋ジストロフィー症の原因となる.長らく謎だった糖鎖構造が解明され,今まで知られていない構造であることがわかった.全容解明された新規糖鎖の生合成機構から先天性筋ジストロフィー症の病態に迫る.

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Notch受容体上のO結合型糖鎖と先天性疾患O-glycosylation on Notch receptors and congenital diseases

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890613

Notch受容体のO結合型糖鎖によるNotchシグナルの制御機序とその破綻が引き起こす先天性疾患について,特に,最近発見された細胞外O-GlcNAc修飾に焦点を当てて紹介したい.

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NGLY1欠損症NGLY1-deficiency

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890620

Ngly1は糖タンパク質から糖鎖を切り離す反応を担う.ヒトのNGLY1遺伝子変異が原因の疾患,NGLY1欠損症の発見により,その機能が注目されている.本稿では,KOマウス解析により得られた知見とNGLY1欠損症の症状との関連性等を紹介する.

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bisecting GlcNAc修飾とアルツハイマー病Bisecting GlcNAc modification and Alzheimer’s disease

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890626

脳に豊富に存在する糖鎖修飾であるbisecting GlcNAcの欠損は,BACE1プロテアーゼの局在変化により,アルツハイマー病の原因となるアミロイドβの産生を抑制した.本糖鎖修飾はアルツハイマー病に対する新たな治療ターゲットの一つである.

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ポリシアル酸転移酵素遺伝子ST8SIA2と精神疾患の関わりPolysialyltransferase ST8SIA2 and psychiatric disorders

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890634

脳に特異的な糖鎖であるポリシアル酸は糖転移酵素ST8SIA2により生合成される.近年ST8SIA2遺伝子が精神疾患に関わる可能性が報告された.本稿では精神疾患との関係性をST8SIA2上の一塩基変異多型に着目した生化学的解析結果を中心に概説する.

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ガングリオシドGM3合成酵素欠損症からみるスフィンゴ糖脂質機能Insights of Glycosphingolipids function from GM3 synthase deficiency

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890644

GM3合成酵素はガングリオシド生合成の律速段階を触媒する酵素である.近年報告された,GM3合成酵素欠損患者の病態とGM3合成酵素欠損マウスの詳細な解析からみえてきた新たなガングリオシド機能に関して考察する.

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シグレック遺伝子の多型・変異と疾患Polymorphisms and mutations in SIGLEC genes and their associations with diseases

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890652

シグレックは主に免疫系に発現する受容体型レクチンのファミリーであり,シアル酸の認識を介して自己・非自己の識別に関わる.本稿ではこれまでに報告されたシグレックの多型・変異と各種疾患の関連を概説する.

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ヒトパラインフルエンザウイルスの糖鎖結合性と感染制御Sialic acid binding specificity of human parainfluenza virus controls the viral infectivity

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890660

ヒトパラインフルエンザウイルス(hPIV)の感染性は細胞表面の糖鎖の構造とシアル酸の結合様式に依存し,hPIV3 HN糖タンパク質の四つのアミノ酸残基が,シアル酸の結合様式の認識に関与していることが判明した.

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自己免疫疾患とシアル酸転移酵素Sialyltransferases in autoimmune diseases

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890666

シアル酸転移酵素はさまざまなタンパク質や脂質にシアル酸を付加する.本稿では,シアル酸転移酵素が自己免疫疾患である関節リウマチの自己抗体上のシアル酸の付加にも働き,シアル酸の有無がその病態に深く関わることを,最新の知見を踏まえて報告する.

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糖転移酵素と多発性硬化症Glycosyltransferase and multiple sclerosis

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890673

多発性硬化症は中枢神経に炎症性脱髄疾患を起こす難治性疾患である.そのモデル動物である実験的自己免疫性脳脊髄炎では,糖転移酵素の調節によって症状を修飾することができるため,糖転移酵素は新たな治療標的となるかもしれない.

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がんの発生と進行に関わるヘパラン硫酸Heparan sulfate signaling in cancer

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890681

ヘパラン硫酸生合成酵素遺伝子あるいは代謝酵素遺伝子の操作により,ヘパラン硫酸プロテオグリカンが関連する細胞内シグナル伝達経路を制御し,がんの進行を抑制できる可能性について,ヘパラン硫酸の構造と生合成機構に焦点を当てながら紹介する.

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グリコサミノグリカンと疾病Glycosaminoglycans and human diseases

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890689

本稿では,グリコサミノグリカンの生合成の異常が起因する疾病,分解異常が原因になる疾病を概説し,最後に,近年明らかになったグリコサミノグリカンの中枢神経における新機能について述べる.

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総説Reviews

光合成水分解・酸素発生反応の構造基盤Structural basis for the photosynthetic water-splitting/oxygen-evolving reaction

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890699

筆者らは,光合成において光化学系IIによる水分解・酸素発生反応の機構を解明しようとしている.これまでに解析した水分解の触媒中心であるMn4CaO5クラスターの無損傷構造と基質の水分子が挿入された中間体構造を紹介する.

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Cdk5の多彩な機能——神経細胞から非神経系へCdk5: A multifunctional protein kinase in the nervous system and beyond

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890710

Cdk5は脳の発達のみならず,シナプス活動や神経変性疾患など神経細胞の一生にわたって多種多様な役割をするキナーゼである.本稿では,Cdk5のプロテインキナーゼとしての性質,神経系における機能,さらに非神経系でのCdk5について紹介する.

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多様な染色体ダイナミクスのmodulator kinase, Cdc7Cdc7:A modulator kinase that regulates various chromosome dynamics

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890719

進化的に保存されたCdc7キナーゼは複製ヘリカーゼMcmのリン酸化を介し,複製開始に重要な役割を果たすとともに,組換え,修復など染色体動態の多様な制御にも関与する.その構造・機能・キナーゼ活性制御・基質認識のメカニズムの最新の知見を紹介する.

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みにれびゅうMini Reviews

粘膜バリアによる腸内細菌と腸管上皮の分離Segregation of intestinal bacteria and intestinal epithelia by mucosal barriers

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890731

多数の腸内細菌が存在する腸管では,腸内細菌に対する過剰な免疫応答を回避するために,粘液層などの粘膜バリアが腸内細菌と腸管上皮を分け隔てている.そのため粘膜バリアが破綻すると,腸内細菌に対する免疫応答が活発化し,腸管炎症が誘導される.

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トランスサイトーシスによるWinglessシグナルの活性化と膜型ユビキチンリガーゼGodzillaによる制御Regulation of apico–basal transcytosis of Wingless by Godzilla, an E3 ubiquitin ligase

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890735

ショウジョウバエの主要WntであるWinglessを,その生合成から分泌まで追跡した.WinglessはユビキチンリガーゼGodzillaに依存的に,apical膜からbasolateral膜までトランスサイトーシスされ,そこで分泌される.

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多糖類利用に向けたセルロース分解性昆虫共生細菌の発見およびそれらが産出する糖質分解酵素の機能・構造解析Discovery of the novel insect-symbiont cellulolytic microbes and biochemical analyses of their enzymes to enhance polysaccharide deconstruction technology

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890739

我々はこれまで細菌が分泌する糖質分解酵素に着目し,糖質利用に関する研究を行ってきた.本稿では,近年明らかになってきた昆虫共生ストレプトミセス属放線菌の保持する高いセルロース分解能力について紹介する.

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プラス鎖RNAウイルスによって形成される複製オルガネラViral replication organelle induced by positive-stranded RNA viruses

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890744

持続感染を成立させるようなウイルスが感染した細胞内には,病原体の自己複製が行われる複製オルガネラと呼ばれる特殊な構造体が形成される.本稿ではプラス鎖RNAウイルス感染によって形成される複製オルガネラの構造と形成の分子機構について解説する.

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プロテインキナーゼDによる未熟T細胞の分化制御The role of serine/threonine kinase, protein kinase D, in thymocyte development

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890748

チロシンキナーゼに比べセリン/トレオニンキナーゼの未熟T細胞分化における役割はあまり知られていない.最近,プロテインキナーゼDがCD4+ T 細胞分化に必須であり,基質を介してチロシンリン酸化カスケードを制御することがわかってきた.

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体内時計の中枢を調節するGz共役型オーファンGタンパク質共役受容体Gz-linked orphan GPCR regulating the center of the circadian clock

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890752

体内時計の中枢を制御するオーファンGタンパク質共役受容体Gpr176を同定した.Gpr176はGzと呼ばれる特殊なGタンパク質と共役する.生体リズムの異常を伴う不眠症や生活習慣病の是正を目指した新型の治療薬の開発につながる知見と期待される.

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ジストニア様の運動症状と感覚神経変性を示すdystonia musculorumマウスの病態解析Neuropathological analysis of dystonia musculorum mice which exhibit motor disorder with dystonia-like movement and sensory neuropathy

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890756

dystonia musculorumマウスは,運動障害と感覚神経変性を示す遺伝子変異マウスである.近年,ヒト疾患モデルとしても注目を集め,病態の統合的理解への期待が高まっている.本稿では,近年の研究進展と今後の課題についてまとめる.

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メタボローム解析を用いた慢性疲労症候群の診断バイオマーカーの開発Development of diagnostic biomarkers for chronic fatigue syndrome using metabolome analysis

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890761

原因不明の強い疲労により日常生活に支障を来す慢性疲労症候群の診断バイオマーカーを開発するため,血漿の網羅的代謝物解析を行った.患者はTCA回路と尿素回路に関する代謝物質の濃度に異常を示し,数種の代謝物質量の比から高精度に診断できる可能性がある.

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ヒストンメチル化修飾酵素が制御する脂肪細胞分化の分子機構Roles of histone-modifying enzymes in adipose cell fate

doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890766

エピゲノムは,環境に応じた細胞の形質獲得に適した機構であり,脂肪細胞の形質転換や分化の制御に関わる.最近,ヒストン修飾酵素が脂肪細胞の分化や形質を制御する機構として,酵素活性を介する系と独立した系の両方が明らかになってきたので紹介する.

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